その源流はベン・ホーガン
2014年6月、ミズノは「ミズノプロTN-87」の復刻モデルを完全受注生産で発売すると発表した。ただ、TNが何かのアナウンスはないが、言うまでもなく中嶋常幸のイニシャルだ。TN-87が発売されたのは、88年だが、中嶋自身は85年からそのプロトタイプを使っていて、85年、86年と2年連続で賞金王の座に就いている。
このモデルのルーツをたどると、ブリヂストンの「ジャンボMTNⅢ」から、さらにはベン・ホーガンの「パーソナル」へと遡る。ジャンボ尾崎はブリヂストンとクラブ契約を交わす以前、マグレガ—やスポルディングのアイアンを使っていたが、とりわけお気に入りはパーソナルだった。
そのこともあって、ジャンボのパーソナルモデルとして開発されたMTNⅢには、パーソナルのイメージが色濃く反映されていた。一方中嶋も、パーソナルの、特に81年モデルに強く惹かれていて、そこにMTNⅢが出現したこともあり、ミズノのスタッフとともに、この両機種のいいとこ取りのようなモデルを作り上げた。これがTN-87である。
同じ頃、ダンロップでも本格的なプロモデルの開発を進めていた。ダンロップには当時、DP-10、20 、30、そしてDP-101などのプロモデルがあったが、DP-101はブレードがやや長めだったこともあり、もうちょっと引き締まった顔のアイアンが欲しい、というプロの声があった。
その声に応えて生まれたのが88年発売の「プロモデルDP-201」。これも開発に当たっては、パーソナルをベンチマークのひとつにしていた。当然ながら、3機種には共通する部分も多い。形状的な特徴としてはまず、トウ側のトップラインの頂点が手前側に寄っていた。同時にフェースのスコアライン区域も全体にヒール側に寄っていた。
これによって、ヒール側でボールを包み込むイメージが強調されていた。また、それ以前のプロモデルに比べるとわずかにグースネックになっていたし、さらに、特にDP-201に見られることだったが、"逃げ感"が強調されていた。
90年代後半になるとプロもキャビティバックのアイアンを使いはじめ、その意味では、これら3機種はマッスルバック最後の名器でもあった。ただバックフェースのデザインこそ変わったとしても、イメージ的には影響が受け継がれているし、TN-87などは、かつてのタイガー・ウッズも使っていたMP-29やMP-14などを経て、現在のMPシリーズにいたるまで、そのベースになっている。
文/近藤廣
(月刊ゴルフダイジェスト2015年2月号より)