強すぎるジャンボの心理戦略
人が何人か集まると、必ずそこに「役割分担」が発生します。その役割は、グループのできる時代や年齢構成には関係なく、きまったステレオタイプに落ち着くことが多いものです。
例えば、大将、知恵者、騒がせ屋、色男、いじめられっ子など。しかし、そこ役割はふつう、会社や趣味のサークルなどある状況に限られているもので、いわゆる“本当の自分”とは少し違っています。会社では「豪傑な将軍」タイプで通っていても、家ではもの静かな盆栽マニア‥というような人もよくいるはずです。
ジャンボ尾崎はもちろん、ゴルフ界では“ジャンボ”というそのネーミングが象徴する通り、「大御所」「神様」という役割にぴったりはまっています。最初から別扱い、上がりを意味するこの役割は、得に見えるかもしれませんが、よく考えると“異人”扱いされてグループからやんわりと排除されているポジションとも言えるのです。
彼のすごいところはこの役割を長年、24時間営業でキープしているところです。役割としての“彼らしさ”は“本当の自分らしさ”とは微妙にずれているはずです。ふつうなら、どこかの時点で「本当の自分を見てくれ!」と我慢できなくなって、役割を返上してもおかしくありません。
しかし、ジャンボを見ている限り、そういった迷いは感じられません。それどころか、神話化されて「大御所」としての役割がより強化されるのを、楽しんでいるかのようにさえ見えます。そこにこそ、彼の並外れて強靭な精神力を感じることが出来るのです。
幸運や才能だけで偶然にトップになることは、そう難しいことではないかもしれません。肝心なのは、そのあと周りから役割を与えられたとき、いかに自然にそれに自分をフィットさせていけるか。それを長年、余裕さえ感じさせながら続けているジャンボは、やっぱり天才なのかもしれません。
芹澤信雄の証言
一緒に回っててジャンボを意識すると、勝負にならないですよ。セカンド地点ではるかまえな飛んでるジャンボが近づいてきてボソッと言うんです。「セリ、こんなところから打ってちゃゴルフが難しいだろ」って。
ジョークとわかってても結構こたえるんですよ、これが。だから僕も言ってやりましたけどね。「ジャンボさんこんなところからやってたら60台しか出ないでしょう」って。
江連忠の証言
僕は初めてジャンボさんと回ることがわかって、2日続けて夢を見てしまったんですよ、ジャンボさんの。身近で見られるいい機会だから、いろいろ注意して見てたんですが、パターに入るときにはオーラが出ますね、歌舞伎役者みたいに。
集中力がすごい。そして一打に対しての執着心がものすごい。ミスすると本当に悔しそう。でも話すとやさしいですよ。聞いたことに丁寧にこたえてくれます。
1995年月刊ゴルフダイジェスト10月号より
【ジャンボ尾崎を学問する】