ピンのソルハイムは類似品を許していた
パターで史上最も多くのコピー商品、あるいはそれにヒントを得て作られたモデルを生んだのはピンのアンサーだろう。創造的な形状のアンサーにはパテントが認められる可能性は十分にあった。モデルが数多く、それに微修正が加えられ続けたことなどもあり、すべてのアンサーが登録出願されたわけではない。「PATENTED」(登録済)、「PAT PEND・」(登録出願中)と刻印されたモデルもあったが、出願中にコピー商品を売り切ってしまえば終わりという業者も少なくなかずあり、結局はイタチごっこだった。
類似品が多く出現したのは、その形状が理にかなっていたことの証明で、ワイドスウィートエリア化の技術はここに完成されたというパターデザイナーも少なくない。スコッティ・キャメロンやボビー・グレースだ。
キャメロンはパターデザイナーになったばかりの頃、ピンがやり残したことをやるのが自分の役割と話していた。それは、打感と精度の追求。80年代以降のアンサーはステンレスロストワックス製が主で、打感が硬く、また精度も十分ではなかったという。そこで彼がたどり着いたのは、素材は軟鉄、製法はミーリング(削り出し)。打感がソフトな軟鉄にこだわり、削り出しにすることで精度を上げようとした。
90年代半ば以降、ツアーでもソリッドボールを使うプロが現れた。当時のソリッドは硬く、軟鉄製パターでも打感が硬いといわれた。キャメロンの結論は、ボディとは別素材のフェースインサートを付けること。トライレイヤードシリーズは、ボディは軟鉄、インサートはトレリアム、そしてフェース裏側にはシリコンと、3種類の素材をレイヤードしたヘッドだった。97年にこれでタイガー・ウッズはマスターズを初制覇した直後は日本でも長く品不足が続いた。
キャメロンはトライレイヤード以後、フェースインサートにはそれほどこだわっていない。ディスタンス系にしろ、スピン系にしろ、ボールがソフトになってきたからであろう。ボールの素材や構造が変われば、それに応じてインサートが変わってくる可能性はあるが、ピン、キャメロン、あるいはオデッセイやロッサにしても、形状はアンサー型をベースにしていくだろう。
それもこれも、アンサーの考案者であるカーステン・ソルハイムが「多くのゴルファーにゴルフの楽しさを味わってほしい」という理由からパテントや模倣品にさほど固執しなかったおかげでもある。彼が最後まで抵抗し続けたのは、ゴルフをやさしくする技術を規制しようとする側に対してだった。
文/近藤廣
(月刊ゴルフダイジェスト2015年11月号より抜粋)
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