スピン量と弾道調整。異なる“飛ばし”の方法論
ヘッド体積、慣性モーメントなど、クラブに規制が設けられるたびにメーカー側は新たな技術・手法を開発して飛びを追求してきた歴史がある。一方で唯一緩和の方向に向かったのが調整機能。本格的な調整機能を搭載したのは、09年4月発売のテーラーメイド「R9」が初である。同社は04年、ソールに設けた4個のウェートを入れ替えて重心位置を調整し、弾道を調整できるという「r7クワッド」を開発した。
「R9」はこれに加えてシャフトの先端のスリーブでロフト角、ライ角、フェース角を調整できるフライト・コントロール・テクノロジーを搭載。重心位置の調整と合わせ、左右最大で約75ヤード幅で弾道を調整できるというのが売りだった。
対して、国内の主要メーカーは、飛びの3要素をそれぞれ高めることの焦点を絞っていた。反発の上限は規制されたが、フェースの広い範囲で高い反発を維持し、芯を外しても高いボール初速を維持する方法、そして打ち出し角をより高くして、スピン量を減らす方法などである。この筆頭がヤマハ「インプレスX 4.6D r.p.m」。
最大の特徴は、重心を低くしてスピン量を減らすことにあった。つかまりがいいのも大きな特徴で、460ccのヘッドでありながら、重心距離が短く設定されていた。ヤマハでは、ヘッドの大型化が急速に進んでいた02年、極短重心距離の「シークレット01」を開発、短い重心距離は同社のお家芸にもなっていた。
カチャカチャでは、直接的にスピンを抑えることはできない。ロフトを立てればスピン量は減るが、今度は打ち出し角が不足する。スピン量に影響するのはやはり重心の位置で、各アングルの調整よりも重心制御を優先したのが「インプレスX」だった。
スピン量に的を絞った「インプレスX」と弾道調整に狙いを定めた「R9」。進化の過程ではそれぞれが重要な役割を果たしていたため、どちらが勝ちでどちらが負けとはいえないが、この勝負が高反発規制後のクラブの進化を促したのは間違いなく、今、他社を含めてその延長線上で、理想的な打ち出し角を確保しながらいかにスピン量を抑えるかの戦いが続けられている。
文/近藤廣
(月刊ゴルフダイジェスト2015年12月号より)