他のプレーヤーの平均よりも、約20ヤード飛ばしていた
最終日の松山英樹選手のプレーを観た多くの方がこう思ったのではないでしょうか。「松山、飛んでるな!」「350ヤード以上も飛ばせるのか!」と。たしかに松山選手のスタッツ(成績)を見ると、ドライバー平均飛距離はフィールド平均を20ヤード近く上回る329.0ヤード。それでいて、フェアウェイキープ率も85.71パーセントと、圧倒的な数字を残しています。
では、松山選手はこの試合を「ドライバーで勝った」のかといえば、私はそうは思いません。むしろ、ドライバーが想定よりも飛びすぎてしまった。そのことによりむしろ彼は苦しんだのではないかとさえ思うのです。
それが顕著に表れたのが18番ホール。442ヤードのパー4ですが、松山選手は72ホール目、ドライバーで356ヤードを飛ばしました。そして、79ヤードのセカンドをロブショットで打ちますが、ピンをオーバー。そこから決めきれずに、プレーオフを迎えます。
356ヤード飛ばしてフェアウェイをキープした「ミスショット」がある?
私は、356ヤードを飛ばしてフェアウェイをキープしたこのティショットは松山選手にとっては「ミスショット」だったのではないかと思います。なぜなら「飛びすぎている」からです。
アマチュアゴルファーのみなさんの多くは、ドライバーを1ヤードでも遠くに飛ばして、セカンドショットで1番手でも小さいクラブを持つことが正しいと思われるかもしれませんが、プロにとってはそうではありません。
ドライバーをマン振りして飛ばし、セカンドをウェッジでチョン。これだとティショットとセカンドの力感が揃わず、ミスになりやすいのです。反対に、ドライバーは残り距離を計算してプレースし、セカンドでしっかり番手なりの飛距離を出したほうが、はるかに距離感は合わせやすくなります。ピンから逆算した場合の戦略は、アマチュアの方と真逆になるのです。
松山選手は356ヤードも「飛んでしまった」。その原因はもしかしたらあまりにも調子が良すぎたから、なのかもしれません。ともかく振れて振れて仕方がない状態だったのでしょう。結果的に79ヤードをロブウェッジで打ったボールは、ピンをオーバーしていきました。もしかしたらもう少し距離が残ったほうが、距離を合わせやすかったかもしれません。
つまり、「飛んでいる=飛距離を制御できていない」状態だったと言えると思います。同じ18番で行われたプレーオフの最初の2ホールも、ドライバーが飛んではいたものの制御しきれず、ウェブ・シンプソンに土俵際まで追い込まれてしまいました。それでもアプローチとパターでしのいで勝利をおさえめたのは、すごいの一言。
松山は、「日本人は欧米人に飛距離で劣る」という“神話”を崩壊させた
かつて、「日本人は欧米人に飛距離で劣るから、世界で勝つのは難しい」というのが常識のように語られる時代がありました。タイガー・ウッズがショートアイアンで打つところを日本人選手はフェアウェイウッドで打つんだから、勝てるわけがない、といったような言説です。
しかし、フェニックスオープンでの松山選手はそれとは真逆。「飛ばなくて苦労」するのではなく「飛びすぎて苦労」していました。しかもその上で、勝ちました。松山選手の登場をもって、日本人選手が世界と戦うためには飛距離アップが必須だ、といった論点は崩壊してしまったように思います。新しい時代を、確実に松山選手は切り開いています。
マスターズが開催されるオーガスタナショナルGCは「ドローヒッター有利」と言われます。しかし、松山プロはフェードヒッター。ならば、松山選手はオーガスタが苦手かといえば、2015、2016年と連続でベストテンに入るなど、まったくそんなことはありません。飛ばない選手にとってマスターズはドローが必要。しかし、松山選手クラスの飛距離があれば、球筋による有利・不利はほとんどないのです。
日本人プロが抱き続けてきた飛距離へのコンプレックス、飛ばないと勝てないという神話は、松山選手が崩壊させてしまいました。次、松山選手が崩壊させる神話は「日本人選手はメジャーで勝てない」というものになるのかもしれません。(談)