一般的な9フィートのグリーン、「上り」「下り」で転がりはどれだけ違う?
ゴルフ場でグリーンが9フィートと表示されていたら「今日のグリーンは速くないな、しっかり打とう」と、11フィートと表示されていたら「今日は高速グリーンだ、気をつけよう」とゴルファーなら考えるもの。しかし、パッティングを研究する濱部教授は「スティンプメーターの数字よりも重要なのは傾斜の影響」だという。
では、傾斜は実際のところどれだけボールの転がりに影響するのだろうか。濱部教授自らがコースに出かけ、実地で検証した。実験の内容は極めてシンプル。グリーン上の様々な傾斜からボールを転がし、上り・下りでどれくらい転がった距離が異なるかを調べるというものだ。
最終組からスタートし、9フィートの速さのグリーンのカップ周辺(ある程度プレーヤーに踏まれた状態)で、「下りのストレートライン」と同じ箇所の「上りのストレートライン」の転がった距離を測定。斜度はデジタル計測器を使用して、開始地点からボールが止まった地点まで、1メートル間隔で測定し、平均斜度を求めた。その結果がこちらだ。
わかったこと:9フィートのグリーンは、「2.5度傾斜」で16.4フィート相当になる
表の数値を左端上から下に見てみると、平均斜度2.5 度でボール転がした場合、平均で500センチ(5 メートル)転がったことを示している。±値は標準誤差であり、465 センチも535センチのデータもあったという意味。平地では274センチ転がるグリーンなので、約2倍転がったことになる。
500センチをスティンプメーターの数値に換算すると16.4フィートに相当する値となる。最下欄に※※があるので、2つのグリーンの近似した傾斜における測定平均値であり、実験回数は「下り」、「上り」共に8回ずつだったことを示している。
この表から、9フィートの“遅い”グリーンでも、「下り傾斜2.5 °」であれば平地で16.4フィート相当のグリーン並に転がるということがわかった。つまりこのスピードは9フィートグリーンの平地速度からすると1.8 倍になるわけだから、プレーヤーとしては相当に速く感じるはずだ。
一方、同じ場所から逆方向、すなわち「上り」のデータをみると、平均180センチ転がっている。というか、180センチしか転がらない。
つまり、仮に「下り」と同じタッチで打った場合、「上り」は1/3 ちょいしか転がらないことになる。平地と比べても2/3しか転がらない。180センチの転がりをフィート換算すると5.9フィートの速さになるわけで、“えらく重い”ことになる。
「下り」で大オーバーしたあと、「上り」でショートするというのはこういうことなのである。
わかったこと2:下りのほうが傾斜の影響を受け、上りのパットは「つねに重い」
また、表1右端上欄の「1.2度」の傾斜を見てもらいたい。「下り」1.2度を見てみると、290センチの転がりであることから、「平地=274センチ」とほとんど差がないことがわかる。一方で「上り」の1.2 度は「平地」より100センチ近くもショートするデータが示された。
これはどういことだろうか。他の傾斜の数値と比較してみよう。
2.5 °傾斜の場合、「下り」で5メートル、「平地」で2.7メートル、「上り」で1.8メートル転がる。これを平地を1とした比率でみると、
下り:平地:上り=1.8:1:0.7になる。
同様に、
2 °傾斜の場合、
下り:3.8メートル、平地:2.7メートル、上り:1.85メートル
下り:平地:上り=1.4:1:0.7
1.2 °傾斜の場合、
下り:2.9メートル、平地:2.7メートル、上り:1.9メートル
下り:平地:上り=1.1:1:0.7
となる。下りの傾斜は平地に対する転がりの比率が1.8〜1.1とまちまちであるのに対し、上りはすべて平地に対して0.7の転がりの比率となっていることに注目。
また、表中の±は標準誤差であるが、スティンプメーターでボールの速度がほぼ一定であるにもかわらず「下り」は誤差が大きい。「下り」は微妙な芝の抵抗を受けたり受けなかったりと、転がりが不安定であるということだ。
もし人間が打つのであれば、当然もっと誤差が出る。それに対して上りは斜度に余り関係なく、誤差も小さく、斜度の影響を「下り」ほど受けず、1.2~ 2.5度の傾斜において一貫して「重い」ことがわかる。
わかったこと3:平均的な傾斜では、下りは上りの「2倍」転がる
表1のデータから我々が良く遭遇する斜度が2 度前後の傾斜から転がしたデータをクローズアップしてみた。これによると一般的な傾斜である2度における「上り」と「下り」の転がる距離は概ね1:2の比率だと言うことがわかる
9フィートのグリーンでの実験結果まとめ
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「下り」傾斜が2.5 度あれば、平地のおよそ1.8 倍転がる。そしてその返しの「上り」は「下り」と同じタッチならば1/3程度しか転がらない。これが「大オーバーの後に大ショート」する理由。
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「下り」1.2 度の傾斜では290センチ転がり、2.5 度では500センチ転がるといったように、大きく傾斜の影響を受けるが、「上り」の場合は1.2 度で190センチ転がり、2.5 度では180センチ転がるといったように、傾斜の影響をあまり受けず、つねに同じように重い。
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一般的な2 度程度の下り傾斜は、平地のおよそ1.4 倍転がる。
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一般的な2度程度の傾斜だと「上り」と「下り」の転がる距離は概ね1:2である。「上り」は「下り」の「倍」打ってよく、「下り」は「上り」の半分のタッチでよいということ。
同じ9フィートのグリーンでも、2.5度の下り傾斜ならば16.4フィート相当の速さになるし、上りならば5.9フィート相当の速さになる。スティンプメーターの数字は参考までにとどめ、今から打つラインが上りか、下りかを慎重に見極めることが、カップインにつながるのだ。
濱部教授のグリーン実験はまだまだ続くが、ひとまず今回はここまで。