レジェンドと呼ばれるプレーヤーの言葉には、ゴルフを変える力がある。今回は、20世紀最高のゴルファーの呼び名が高い“帝王”ジャック・二クラスの言葉を紹介しよう。練習場で何百球も打つゴルファーには身にしみる言葉かもしれない。
「私は一球たりとも無駄なボールを打ったことがない」
「私は一球たりとも無駄なボールを打ったことがない」byジャック・ニクラス
1960年代から80年代前半まで世界の頂点に君臨し、“帝王”と呼ばれたニクラス。そんな帝王は、試合はおろか練習でも表題の「言葉」が現実だった。
今から30年以上も前のマスターズ。練習場で帝王がドライバーを取り出すと、キャディのアンジェロはボールの落下地点とおぼしきところに、ボールカゴを持って立つのだ。ドライブの時は感触をつかむために、実戦で使う自前のボールで打つのだが、それを回収するために。
帝王からドライブされたボールは――アンジェロはときおり位置は変えるが、そのあとはほとんど動かずに――ワンバウンドで、カゴの中に入っていく。たった一球の例外もなく。
アンジェロが打つ前に動くのは、帝王がフック、スライスの合図があるからだと、後で知ったことだった。
その様子をジャンボ尾崎が自分のボールを打つのを止めて、しゃがみ込んで憧憬の顔つきで見ていたのが昨日のことのように思い出される。