「総合力」は現在ツアー2位
ダイヤモンドカップの優勝賞金は3000万円。現在賞金レースのトップを走るチャン・キム選手の獲得賞金額が約7800万円ですから、現在約5500万円を稼いでランク7位につける片山晋呉選手まで、この試合が終わった時に賞金王争いの先頭に立っている可能性があります。
まだまだ賞金王が誰になるかわからない展開ですが、その中で個人的に一歩抜け出すのでは? と予想しているのが、24歳の今平周吾選手です。
男子ツアーの部門別ランキングの中に「Unisysポイントランキング」というものがあります。ドライバー飛距離、パーオン率、平均パット数など主要9部門のランキングの和で示され、選手の総合力を表すランキングです。
現在今平選手は、小平智選手と7ポイント差の2位。3位のイム・ソンジェ選手には46ポイントもの差をつけています。ショットからパットまで、穴のない総合力は、もはやツアー屈指の実力といって過言ではありません。
一勝したことによるメンタル面の落ち着き、今年から使い始めたヤマハのクラブとの相性も抜群にいい。心・技・体・クラブのバランスが、今もっともいいのが今平選手ではないでしょうか。
左ひじが曲がった五角形インパクト
それでは、今平選手のスウィングを見ていきましょう。実は、彼のスウィングは非常に個性的。中でも目を引くのは、左ひじが曲がったまま、腕が“五角形”の状態で迎えるインパクト(写真1)です。
今平自身が過去に「フェースを返す意識はない」と発言しているように、このインパクトからはフェースターンを抑える意識が見受けられ、飛距離よりも方向性を重視した打ち方だと言えます。それでいて、平均飛距離は290ヤード超。実際、今年初出場した全米オープンでは、「あの選手は、小柄なのになんであんなに飛ぶんだ!?」と一部で話題になっていました。
では、フェースを返さずに打つ今平選手はなぜ飛ばせるのでしょうか? 写真2を見てみましょう。
インパクトゾーンではフェースの開閉を極力抑えているので、手が返る(フェースがターンする)のはインパクトゾーンをかなり過ぎてから。これは、右手を返すのではなく、左手のリードでボールを押し込むようにフェース面を動かしているからに違いありません。より長くフェースがスクェアに動くため、曲がらずにボールをしっかり押せるようになり飛距離にも結びついています。これには、今平選手が左利きであることも影響していると思います。
間違ってほしくないのは、フェースを返さないから飛ばない、フェースを返すから飛ぶということではないという点です。今平選手の場合、切り返し初期の腰の回転が速く、上半身が追いついて来たところで左の壁で受け止めることによって、クラブを効率よく加速させています。フェース面のターンは少ないとしても、ヘッドは十分に加速しているのです。
速度の乗ったヘッドの動きを妨げないようにフォローではフェースが返り、大きなフィニッシュにつながっています。
また、インパクトゾーンでフェースを開閉させずに真っすぐに飛ばす為には、ボールの真後ろからヘッドが入ることが前提になります。カット軌道やインサイドアウト軌道で真っすぐに飛ばしている人の場合、ヘッドの軌道をフェースの向きで相殺し真っすぐに飛ばしていると考えられます。
もちろん、飛距離や方向性が安定すればそれでも構わないのですが、今平選手の場合はより高い精度を求める中で、現在のボールの真後ろから真っすぐ当てるスウィングを構築してきたと言えるでしょう。いわば“正面衝突”。エネルギー効率の高いインパクトです。
高校1年生の時、一学年上の松山英樹を倒して日本ジュニアを制するなど、そのポテンシャルは折り紙付き。5月の関西オープンでの初優勝以降、9月のANAオープンでもプレーオフで敗れたものの2位。秋のビッグトーナメントに向けて調子は上々といったところでしょうか。
同じヤマハ契約になったベテランの谷口徹と練習グリーンで会話する様子を見ても、ベテランから貪欲に何かを吸収しようとする姿勢が見られます。
残すところ、「ダイヤモンドカップ」を入れて「日本シリーズJTカップ」まで11試合。賞金ランクトップのC・キムとは約1200万円差と十分に賞金王を狙える位置。2017年の賞金王を獲り、世界ランク50位以内に入れば、マスターズ出場が見えてきます。
同年代の松山選手に負けない活躍を期待したいですね。
写真/姉崎正、大澤進二