溝加工の現場を訪ね北海道へ行ってきた!
溝加工を行っているのは北海道の工房「クラフト」。溝規制が導入される前から注文に応じて溝を削ってきた。新溝ルールの導入を機に、どこまで規制値ギリギリに加工できるのかを追求。独自の方法で精度の高い切削を可能にした。
「溝を深くするだけなら簡単です。しかし新溝ルールに合わせるためには、高い精度が必要。しかも市販の溝にはバラつきがあるし、素材もまちまち。手作業でやるしかないので、手間と時間がかかります。でも『ボールを止めたい』というゴルファーの声に答えていきます」と話すのは、溝加工の達人、佐藤順一さん。
【新溝ルールのおさらい】
深さ:0.020インチ(0.508ミリ)以下
幅:0.035インチ(0.9ミリ)以下
間隔:1本の3倍以上かつ0.075インチ(1.905ミリ)以上
形:単純で、左右対称、収束しない
縁:0.010インチ(0.254ミリ)以上、0.020インチ(0.508ミリ)以下の有効半径をもつ円形状

上の写真が加工前の市販のウェッジ。下の写真が加工後。加工前の溝は浅いため、光が届いて白く写っているが、加工後は深くなったため影になり、溝が深く見える
新溝ルール規制値内の激スピンウェッジができるまで
一言で溝加工といっても、ただ溝を刻み直すだけではない。ルール適合でなければ意味がないので、その手間は想像以上だ。その工程を見てみよう。
1.加工するウェッジの溝をくまなく計測
佐藤さんの工房に某ウェッジを持ち込んだところ、加工前の溝の深さは0.271ミリ、これでも市販モデルでは深いほう。市販の溝は浅く、1本の溝でも場所によって深さがバラバラ。1本の溝につき最低3ヶ所、すべての溝の深さ、間隔を計測。

1/1000ミリの精度で深さが測れるデプスゲージを使用
2.CADで3Dデータ化画面にスコアラインが再現
計測した数値を元に、CADで3Dデータを作成。画面上に現状の溝が再現された。

CADにて現状のスコアラインを3D化する
3.3Dデータから切削用マシン語プログラムを作成
ルールの規制値を越えないように、数値を調整しながら、切削用プログラムをマシン語で作成する。精度は1/1000ミリ。

規制値を超えないよう慎重に切削用のプログラムを作成
4.PC制御の自作研削機と特注の刃で溝を切削
独自の機械にヘッドを完全な水平状態で固定。特注のビットでプログラムに沿って1本1本切削される。

髪の毛数本ほどの細い刃先。ウェッジの材質によって刃の種類を替える
5.再びウェッジの溝を計測
切削後は再びデプスゲージを使い、すべての溝がルール規制値を越えていないか確認する。

加工後の溝は0.464ミリ。(加工前は0.271ミリ)元より1.7倍深くなり、かつ余裕でルール規制値内。溝の深さだけが変わり、溝の形状や幅はそのままなのがポイントだ
これは角溝!? 驚きのスピン
では実際、加工前と後ではどれほどの差があるのだろう? アプローチが得意な久古千昭プロが試打をしてみた。
「フェースに球が喰らいつく。久しぶりだね、この感覚。規制前の角溝のよう」と一球打った久古プロはビックリ。加工前のウェッジと打ち比べると、ボールの低さが歴然だ。
「強いスピンがかかっているから、下への力が働いている。球を追う目線が違うよ。見上げることなく、ライナーで強い球。落ちたあとはトントン、キュッ!」
同じ振り幅でも加工後は、低い打ち出しで前に行く強いボール。それでいて落ちてからはスピンが効いて、ランも少なかった
距離を変えてデータを計測するが、明らかに加工後のスピン量が多い。「数値以上に、実際の球は違う。これはすごい!」

加工したウェッジは56度。硬く締まった砲台グリーンと、スピンのかかりにくいバミューダ芝で試打。数値はトラックマンで3球計測した平均値。ボールはプロV1を使用
この激スピン加工を、特別に毎月限定20名受け付けることが決定。加工費は1本1万5120円(税込)。愛着ウェッジが、激スピンになって蘇るチャンスだ。詳しくは下記のページから。
写真/姉崎正、加藤晶、中居中也
(週刊ゴルフダイジェスト2017年10/3号より)