飛びすぎるボールは善か悪か
「飛ばないボールの工夫を始めるべきかもしれない」とタイガーが発言したのは女子バスケットボール伝説のコーチ、ジーノ・オーリエマ氏が司会を務めるポッドキャスト(インターネット配信)番組の中。
10年前、300ヤードを飛ばすのはジョン・デイリーくらいのものだったが、最近では普通に振って300ヤード越えの選手がほとんど。技術はもちろんだが用具の進化がゴルファーに与えた恩恵は計り知れない。
このままいくと350ヤード越え、400ヤードの飛ばし屋まで現れるやもしれず、コースのキャパシティが追いつかなくなるのでは? という懸念は以前から議論されてきた。
ジャック・ニクラスやゲーリー・プレーヤーは飛ばないボール推奨派の急先鋒。
「アマチュアは最新テクノロジーの恩恵をいくらでも受ければいい。ただしプロは違う。特に最近はボールが飛びすぎる。これまでゴルフ場がコースの距離を伸ばすことで対応してきたがもう限界。プロに限っては規制を作り飛ばないボールを採用すべき」と真剣に訴えている。
この議論に対してタイガーも「コースが7400ヤード、7800ヤードとどんどん伸び、いまにトーナメントを開催するには8000ヤードが必要になってしまう。これは恐ろしい現実だ。それだけ広大な土地を確保するのは困難」と同調する意見を述べたのだ。
実はコースが距離を伸ばす工夫を始めた要因のひとつがタイガーの存在だ。97年のマスターズで後続に12打差をつけ、2000年の全米オープンでは15打差と桁違いな圧勝劇を演じ、さまざまなコースが距離を伸ばすきっかけになったのはご存知の通り。
あれから20年。今年10月に行われた欧州ツアーのアルフレッド・ダンヒル・リンクス選手権ではイングランドのロス・フィッシャーがセントアンドリュースで「61」をマーク。コースレコードを塗り替えたことでプレーヤーは「聖地が普通のコースになってしまった」と嘆き「ゴルフ界はことの重大さに気づくべき」と力説している。
ニクラスやプレーヤーと近いタイガーも飛びすぎるボールに警鐘を鳴らすひとり。「いますぐ飛ばないボールに変えるべきとはいわないが少なくてもいまから議論はすべき」だという。
アマチュアとプロが違うボールを使うとなれば、これまで飛ぶボールの開発に命をかけてきたメーカーの反発は目に見えている。プロとアマの線引きも難しく議論すべき点は多い。
だがこのまま用具の開発が進み飛距離が伸び続ければコースの改造や造設に莫大な費用がかかるのは目に見えている。ゴルフ場の経営が立ち行かなくなる可能性も否めない。さらには自然保護の問題もあるだろう。
タイガーの発言を試金石としてルールを司るR&AやUSGAが活発な議論を始めるべきときがきているのかもしれない。