宮里優作がシーズン最終戦ゴルフ日本シリーズJTカップで圧勝、逆転で初の賞金王に輝いた。ウィニングパットを沈めこみ上げる涙で視界が霞むなか、拾い上げたボールをそっとポケットに忍ばせた。闘病中の身で病院から抜け出し息子の勇姿を見守った最愛の父・優さんに渡すためだった。

勝てない時に父は言った。「腐っても優作です」

以前より細っそりとした優さんの手にウィニングボールを握らせ、優作は父の肩に手を添えた。何もいわなくてもお互いの気持ちが手に取るようにわかった。

「三兄妹のなかで一番私に似ているのが優作。勝ち気で泣き虫、こうと決めたらとことんやる。頑固な私の性格を引き継いたのが彼なのです」

幼い頃から3歳上の長男の聖志に追いつけ追い越せでゴルフに打ち込んだ次男坊は、おっとりとした兄とは対照的に大の負けず嫌いだった。

コンペでホールインワンをマークしても「最終ホールでOBを叩いたのが悔しい」とラウンド後号泣したばかりか、翌朝目を覚ました途端悔しさがこみ上げ涙をポロポロ流し、家族を笑わせたという逸話もある。

そんな優作は文武両道を貫き大学時代には史上最強のアマチュアとうたわれるまでに成長した。アマ55冠、プロの試合でトーナメントレコードをマークするなどプロより強いアマとして名を馳せた。

ところがプロデビュー後は周囲の期待に反して勝てなかった。その間妹の藍が世界に羽ばたき、いつしか宮里家の主役は優作から藍へと移っていた。

だがそれもいまは昔。13年に今回と同じ日本シリーズで劇的な優勝を飾ってからは堂々とトッププロ街道を歩み今年は中日クラウンズ、日本プロのビッグタイトルを獲得。選手会長として初の賞金王候補に浮上した。

そんなとき父が病に倒れた。今シーズンで現役引退を表明していた藍が最後の全英オープンに挑んだときのこと。練習ラウンドで倒れ救急車で病院に搬送された。幸いすぐに意識は回復し快方に向かっているが、実は現在も完治に向け病院で療養する日々が続いている。

画像: 師匠でもある父・優さんと賞金王の喜びを分かち合った(2017年日本プロゴルフ選手権)

師匠でもある父・優さんと賞金王の喜びを分かち合った(2017年日本プロゴルフ選手権)

頑張りが空回りし結果が出なかった頃父はよくいっていた。「腐っても優作です」と。いつか自分によく似た息子が一発逆転で実力を開花させる日が来るのを信じて疑わなかった。

聖志は若くして全英オープンの舞台に立ってくれた。トム・ワトソンと同組でプレーする息子の姿を目に焼き付けることができた。初めてのメジャー体験は格別だった。

藍は数え切れないほどメジャーの晴れ舞台を見せてくれた。聖地セントアンドリュースに連れていってくれたときには古(いにしえ)のゴルフの原点に触れ胸に熱いものがこみ上げた。

そして優作に託す優さんの願い。それはオーガスタの美しい杜(もり)で繰り広げられるゴルフの祭典マスターズでプレーする勇姿を見せて欲しいということ。

その思いに応えるためには賞金王に甘んじている時間はない。世界ランクを上げトップ50に入らなければならないのだから。

兄妹のなかでもっとも期待を寄せながら、いっときはスウィング理論で対立し袂を分かち合った親子。気を揉み、心配もし、ハラハラさせられ、イップスに悩んだ苦悩の日々に痛みも覚えた。だがいつしか2人は再び心を通わせ腹を割って技術論を語り合える仲に戻っていた。

酸いも甘いも噛み分けた37歳の息子が父に捧げたメジャー勝利と賞金王という最高の勲章。だがこれで終わりではない。親子の物語は優作がグリーンジャケットに袖を通したときにクライマックスを迎えるのだ。

奇しくもアマチュア時代のライバルで、優作が世界ジュニアで倒したことのあるセルヒオ・ガルシアが昨年のマスターズでメジャー初優勝を飾った。大器晩成。来年は優作の番? だとしたらこれ以上のドラマはない。その前にきっちり招待状を掴んでもらいたい。

写真/姉崎正

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