別物に仕上がっていたスウィング
2017年1月にタイガー・ウッズがPGAツアーに復帰したファーマーズ・インシュランス・オープンの会場で、タイガーのスウィングを直接見る機会がありました。今回復帰戦で見せたスウィングはその時とはまったく別のもので、さらに言うと、復帰前にWEB上にアップされたものとも別のものでした。
以前はひざや腰の負担にならないように、クラブヘッドを走らせるような打ち方をしていました。たとえばトップの形に注目すると、以前はシャフトが地面と水平になるまで上げていましたが、現在はその手前のシャフトがやや立った状態まで小さくなっています。クラブの運動量で飛ばすより、自らの体の動きの割合を増やしてクラブをコントロールするという意思の表れではないかと思います。
ラウンド中は20歳近くも年の離れた若手のジャスティン・トーマスや松山英樹をオーバードライブするシーンがたびたび見られました。
2日目に9番ホール603ヤード パー5で2オンを見せた際は、見事なフェードボールで力強くクラブを振り切れていたので、体への影響もないと考えてよいのではないでしょうか。今後のことを考えると、このスウィングを4日間通してできたということに大きな意味があったと思います。
タイガーが地面反力を積極的に使い始めた
現在タイガーに指導をしているスイングコンサルタントのクリス・コモは、バイオメカニクス(生体力学)の視点を積極的にスウィング動作に取り入れています。
その代表的な動きが、ダウンスウィングで地面を踏み込んで、その反発力を上半身の回転に変える”地面反力”を生かした打ち方です。地面反力をスポーツの動きに用いる研究をしているヤン・フー・クォン教授に、そのメリットをこう解説します。
「どんな動きでもエネルギー源は、その人自身の筋力から生み出される”内力”と、重力や反力といった”外力”に分類されます。外力を用いることで筋力への依存度が下がり、さらに体への負担を抑えることにもなります」
ひざや腰を故障し、さらには今後年齢よる衰えの不安があるタイガーにとって、これまでのフィジカルに頼ったスウィングは長く付き合っていける動きではありません。
そうなったときにある程度クラブをコントロールしつつ出力を落とさないことを考え、地面反力を使ったスウィングを積極的に取り入れているのではないでしょうか。
とくにその動きが顕著に現れているのがダウンスウィングからインパクトにかけての動きです。タイガーは前回復帰時よりダウンスウィングで深く沈み込み、地面に強く力を加えていました。そして、インパクトではその反力によって左足が浮き、つま先が回転して目標を向いています。この動きの度合いは全盛期よりも大きくなっており、意図的に外力を使ってスウィングをしていると思われます。
腰やひざの手術に加え、加齢もあるタイガーの体は全盛期のコンディションには程遠いはずです。私も化膿性脊椎炎という病気で立ち上がるどころか寝返りすら困難な腰の痛みを発症し2カ月ほぼ寝たきりでしたが、その後遺症は今でも残っています。困難な手術を乗り越えてきたタイガーの復帰に至る道程の過酷さは想像を絶するものでしょう。それでもダスティン・ジョンソンをも凌ぐ飛距離のドライバーショットを放つことができるのは、新たに取り組んでいるスウィングの効果だと思います。
コモはクォン教授に大学院でバイオメカニクスを学びゴルフスウィングの研究を行っていたこともあり、今後もバイオメカニクスを積極的にスウィングに取り入れていくと考えられます。
こういった新しい動きが体に馴染み、怪我への不安がなくなれば、近いうちにメジャーでの優勝争いを見ることができるでしょう。