それは、偶然の発見だった。ある日のこと、濱部教授はパターのインサートごとにどれだけ転がりが変化するかを確かめようと研究室で実験を繰り返していた。
パターはインパクト時に8〜14ミリ浮いた状態だと転がりが良くなるという過去の実験結果を踏まえ、濱部教授はインパクト時のヘッドの浮き具合を変化させ、それとは別に、インパクト時のロフトの影響も考慮に入れた。そこに、大発見が潜んでいたのだ。
「A、B、C、インサートや形状の異なる3つのパターに関して、2ヤード、5ヤード、8ヤードの距離を、それぞれ浮かせ具合、インパクトロフトを変えて実験していたところ、なんと、ほぼすべてのパター、すべての距離で、インパクト時のロフトが“0〜マイナス2度”のとき、結果がもっとも良かったんです。これには本当に驚きました」(濱部教授、以下同)
実験で使用したA、B、Cとは、2017年シーズン途中で松山英樹が使用したことで話題となったテーラーメイドの 「TPコレクション ミューレン」、女子ツアーを中心に転がりがいいと評判の「TRUE2 DBM1」、そしてオデッセイの「O-WORKS #7」の3本。
TPコレクション ミューレンとDBM1はともにロフトが2度の設定だったが、そこからマイナス4度でインパクトを迎えたとき、すなわちインパクトロフトがマイナス2度のときに、もっともパフォーマンスを発揮したのだ(O-WORKSではマイナス2度条件での実験を行わなかった)。
「O-WORKSでも、もっとも評価スコアが良かったのはインパクトロフトが0度の場合でした。そして反対に、インパクトロフト4度の場合が、もっともスコアが悪かったのです」
濱部教授がかつて行った、パターの浮かせ具合実験で証明された、パターは浮かせた状態でインパクトしたほうが転がりが良くなるという事実より、実はインパクトロフトのほうが転がりへの影響が大きい。それも、0度を下回るロフトでインパクトしたときに、もっとも転がりが良い。それは、パター研究家である濱部教授にとって“大事件”だった。しかも、事件はこれで終わらなかった。
「こうなると気になるのが、マイナス4度はどうなの? ということです。さすがにマイナス4度の逆ロフト状態ならバウンドするだろうということで、念のため、研究室のパットマシーンを改造して、ためしにBのパターで実験して分析したところ、またまた驚きの結果が出てしまったんです」
なんと、マイナス4度、つまり4度分だけフェース面が地面を向いた状態でインパクトした結果、マイナス2度インパクトよりも、ほぼ全条件で転がりが良いという結果になってしまったというのだ。
「インパクトでマイナス4度ロフトとなると、グリップエンドを垂線から8センチほどハンドファーストに傾けた形になります。実験結果を検証しようと、私もハンドファーストをかなり強めてストロークしてみましたが、感触、転がり、方向性、いずれも良かったんです」
驚きは終わらない。濱部教授はさらに、日を改めてマイナス6度でのインパクト実験も行っている。
「さすがにバウンドすると思ったんですが、なんとマイナス4度と同じか、それよりも転がりが良かったんです。ロフトを1度立てるためには、34インチのパターでいえばグリップエンドを1.5センチハンドファーストにする必要があります。つまり、ロフト2度のパターのインパクトロフトをマイナス6度にしようと思ったら、グリップエンドが12センチンドファーストになるんです。さすがにあり得ない感じですが、実際マシーンでなく自分で打っても良い感触でいい転がりをします」
濱部教授は現在、この実験を続行中で、学術誌への論文掲載も準備しているという。ひとえに、“これはゴルフ界をひっくり返す可能性を秘めている”という確信あってのことだ。
「おそらく、ロフトだけのことではなく、入射角とも関連性があるはずです。現在このあたりを実験で検証中ですが、うまくいけばプロのパットはなぜ転がりがいいのか、その秘密が解明できそうです」
グリーン上にあるボールは、重力により芝の中にわずかに沈む。そのため、インパクトではわずかにロフトがある状態のほうが転がりが良くなるというのがこれまでの定説だったが、今回の実験は、それの定説を完全にとは言えないかもしれないが、覆す結果となった。
まだまだ発見が待っていそうな今回の実験。続報に期待したい。