熟成肉ブームの立役者は六本木に店を構えていた
熟成肉とは大まかに言えば「牛肉は腐る直前が一番ウマい」という、古くから言われてきたそれである。
もちろん自然に……ではなく、あくまでもウマみを引き立たせるため効果的かつ意図的に熟成をさせるわけだが、熟成にはいくつかのやり方があり、ここで言う“熟成肉”とは、簡潔に言うと、一定の気温と湿度を保った状態で風を当て続ける「ドライエイジング」という手法で熟成された肉を指す。
ウマさの理由は香りと食感。乾燥過程で牛肉のたんぱく質が「旨み成分」とも呼ばれるアミノ酸へ変異し、甘いナッツのような独特な香りと柔らかさを出すのだ。もうひとつ、熟成肉は比較的高価である。というのも、ドライエイジング加工された肉の表面は食用には適さず、“トリミング”と言う表面を削る工程を経なければいけないから。ウルフギャングでは平均30%の肉をトリミングするそう。
“Tボーンステーキ”は、ニューヨークの名門ステーキハウスで40年以上活躍したウルフギャング・ズウィナー氏が創業した「ウルフギャングステーキハウス」の看板メニュー。2014年の日本初上陸以来、国内の“ニク好き”たちを虜にしつづけ、熟成肉ブームの立役者ともなった、まさに「ステーキ中のステーキ」だ。
陶器の平皿に巨大な塊が鎮座し、ジュージューと音をたてながら、陶器の平皿に鎮座した巨大な塊。ナッツのような熟成肉特有の香りに、芳醇なバターの香りが追従する。
「まずお皿にバターを置き、約900度のオーブンで溶かします。その上に肉を乗せ、1分半ほどで一気に焼き上げます。骨をはさんで左がフィレ、右がサーロインとなっていますので、食感と香りの違いを楽しんでいただけます」
ちょうど良いサイズにカットされた肉を口に入れると、一気に深い香りが広がる。フィレは口の中でとろけるような柔らかさ、サーロインは脂の旨みと香りが際立っている。
ここでひとつ、本誌では紹介しなかった情報を。常連たちから特に人気なのが“骨のお持ち帰り”だ。立派なTボーンを自宅へ持ち帰り、おすすめどおりカレーに入れてみると…カレーのコクが2倍にも3倍にも増している!
ウルフギャングでTボーンステーキを頼んだら、合い言葉は「骨は持ち帰りで」だ。
写真/三木崇徳