ディンプルがボールの方向性を乱す
「こんなデコボコなものを打って、ボールが真っすぐ転がるとは考えにくい」
実はこれが、私がパットの研究を始めようと思ったきっかけです。ボールの表面に施された無数のディンプルは、パットにどう影響するのか疑問に思いました。
ディンプルは、ボールをより遠くへ飛ばすために必要です。もしディンプルがなければ、ボールは揚力を得られず急降下。ボールには初速制限があるにしても、最近のボールの進化はディンプル(空力性能)の進化といっても過言ではありません。
しかし、パットに関していえば、プラスにはなりません。まず、方向性を乱します。ディンプルはくぼみですが、その端は角になっており、パターフェースのような平滑なもので打つと、接触箇所である角が「点」になり打ち出し角が微妙に変化するのです(ロングパットでは接触面がつぶれて接触箇所が「面」になるため、直進性は高まり方向性は安定する)。
ロボットを使って実験したところ、毎回ではありませんがボールの打ち出しが1.4度ずれることもありました。これは、約2メートルのパットで約5センチも方向がずれることを意味します。直径10.8センチのカップの中央に向けて構えても、カップの端から入るか、場合によっては外れてしまうほどの値です。
このディンプルの影響を抑えるために、何が必要なのでしょうか。実験を重ねていくと、パターのフェース面の形状と硬さにポイントがあることがわかりました。
前出の実験は金属フェースを用いたもの、つまり、表面が硬いもので打ったときの数値ですが、軟らかいもので打てばボールの角の影響を吸収し、ディンプルの影響を抑えられ、真っすぐ打ち出すことが可能になったのです。
フェースの素材で打感は変わる。打感が変われば距離感が変わる
フェース面にはいろいろな素材が使われています。ヘッドと同じ素材のステンレス、アルミや銅のような金属系のもの、または樹脂インサートなど。それぞれ硬さが異なりますが、実際にはボールの初速はそれほど差がありません。
しかし、フェースの素材は打感の違いとしてプレーヤーにフィードバックされます。金属系は打ったときの振動を吸収しにくい素材なので、打感がダイレクトに伝わり硬く感じ、樹脂系は振動を吸収しやすい素材なのでソフトに感じる、という特性があります。
これがプレーヤーに影響を与えるのです。フェース面が金属系の場合、ボールが強く出る感じがするため、次第にインパクトが弱くなる可能性があります。かつて、打つと「ピーン!」と高い音がするパターがありましたが、昔の遅いグリーンならともかく、現代の高速グリーンで使うには少し怖い気がします。
対して樹脂系の場合、素材の特性によって打感が吸収されます。「減衰率」といいますが、これが高いと打ったときの音がしなくなります。音と打感は密接に関係していますので、樹脂系のほうがしっかり打てる、といえます。
これらを踏まえると、パットがショートしがちな人は、打感がソフトな樹脂系のフェース面を選ぶとしっかり打てるようになりますし、逆に打ちすぎる人は金属系のフェース面のものを使うことで、オーバーのミスが減る可能性が高い。このようにフェースの素材と距離感は切っても切れない関係にあるのです。
個人的には、心地良いマイルド感のあるフェースの方が、しっかり打てるようになるので、距離感がつかみやすいと考えています。
と言うと、「金属系はダメなのか?」と言われそうですが、必ずしもそういうわけではありません。
最近は、金属系のフェース面に溝が彫られていたり、「ミルド」といってらせん状の細かい削りが入っているものが多い。これにより、極端に言えば、面で当たっていたものが点の集合で当たるようになり、インパクト時のボールとフェース面の接触面積が減るために、例えばウレタンカバーのボールを打ったとしたら、ボールの感触が勝り、打感が軟らかくなるのです。
また、溝やミルドには、球持ちが良くなる効果も期待できます。フェース面に削りを入れることで、わずかですがフェースがボールに食い込み、接触時間が長くなるのです。つまり、インパクトでボールが一瞬つかまるようになります。
私の実験では、アマチュアの方の多くがインパクトでフェースが1~2度右を向いて当たっていることが分かっているのですが、インパクトで一瞬つかまるようになれば、その誤差を緩和することができますし、オーバースピンをかけやすくなって転がりが良くなる効果もあります。もちろん、ディンプルの影響を吸収することも期待できます。
「入っちゃう! パットの法則」(ゴルフダイジェスト新書)より
写真/三木崇徳