技術の進化で「見えないチカラ=フォース」が可視化された
近年の世界のトップ選手の飛距離アップ。その裏には、さまざまな計測機器の進化があります。かつて、スウィングチェックは体やクラブの動きを撮影したコマで確認し、理想の形に近づけていく方法でした。次に、計測器の登場により、ヘッドスピードやボールの回転数など、道具の動き方が数値化されるようになっていきます。
そして最新の技術ではスウィング中、体のどこの部位にどの程度の力(フォース)がかかっているのかを計測できるようになっているのです。これまで見えなかった力の方向が見える事で、力のかかる配分や方向を正しく導き、漏らすことなくヘッドスピードにつなげる「フォースを操作する」ということが可能になったのです。
スウィング中の地面に関するフォースの測定には、フォースプレートという地面に埋め込まれた器具を使います。この器具の上でスウィングする事で、上下左右全方向にかかったフォースを測定し数値化することができるのです。実際には目には見えない力の可視化です。
それをハイスピードカメラの映像や、モーションキャプチャーで撮った体の動きと重ね合わせて、どの部分を修正していくとフォースを最大限使えるのか、探していくのです。
ゴルフスウィングにおけるフォースの生かし方を研究しているテキサス・ウーマン大学のヤン・フー・クォン教授とともに、何度かプロの計測をしたことがあります。これまでの計測のやり方であれば、アドバイスはクラブや体の動かし方が中心になるのですが、教授は「もっとダウンスウィングで力を入れる。ジャンプするように踏み込む」といった、力の出し方に関するアドバイスを行う場合がほとんどです。
実際に振っているプレーヤーの立場から見ても、出力が上がっていく感覚がつかめるので修正を実感しやすいといったメリットがあります。フォースプレートは大学の研究室など限られた場所にしかないため、欧米のトッププロはオフの期間を利用してこういった場所に出向き、計測をしてスウィングの調整を行っています。
ホリゾンタル・フォースが武器のジョンソン
フォースプレートによって注目された代表的なフォースに、地面反力があります。地面を踏み込み、それが跳ね返る力のことです。
「体格をカバーするために地面反力を効率よく使うことはいつも考えていますね」
2017年のPGAツアー新人王であるザンダー・シャウフェレの父親でコーチでもあるステファン・シャウフェレは意図的に地面反力を使って飛距離を伸ばしていると言います。地面反力の活用は、米ティーチング界ではテクニックの一つではなく、指導者なら誰もが知るべきティーチングの常識となっています。
地面反力と言っても生まれるフォースには様々なものがあります。ダスティン・ジョンソンが使うフォースは、垂直軸に対して体を回転させるトルクを生み出す「ホリゾンタル・フォース」(ホリゾンタル=水平)です。バックスウィングで右ひざ、ダウンスウィングでは左ひざが伸びます。こうすることで垂直スウィング軸に対して体全体を大きく回転させるができるようになります。
フォースは、もちろん上下方向だけのことではありません。前後の体重のかかり方は、右かかとから左かかとに対してフォースが移動してきていきます。バックスウィングで右かかとに体重が乗って、切り返しからからインパクトにかけて左かかとに体重が乗っていくことでトルクが大きくなるのです。
バッバ・ワトソンはバーティカル・フォースで飛ばす
PGAツアーで長年、ドライビングディスタンスの上位にいるのがバッバ・ワトソンです。ワトソンは地面を踏み込んだ際に反動で返ってくる力(地面反力)を、上半身の縦回転に変えて飛ばす「バーティカル・フォース」(バーティカル=縦)です。
バックスウィングで左かかとを上げ、アップライト(急角度)にクラブを上げるワトソンのスウィングは独特のものとされていましたが、フォースプレートを使った計測がさらに普及すれば、彼のような体の使い方を取り入れる事で飛距離を伸ばす選手が多く出てくるでしょう。
市場に多く流通する事でその価格が下がり普及したハイスピードカメラのように、少し経つとフォースプレートを使ったレッスンもポピュラーなものになってくるかもしれません。プロゴルファーが続々とフォースを可視化して飛ばしにつなげているように、今後のみなさんのゴルフが、フォースとともにあらんことを願うばかりです。