50ヤード先の幅15センチの柱に連続して当てる正確性
アメリカではスポーツで3連覇することを、「3(スリー)」と「リピート」を掛け合わせて”スリーピート”と呼びます。PGAツアーにおいて、メジャーをもしのぐ観客動員を誇るフェニックスオープンで、松山英樹はアーノルド・パーマー(1961年~63年)以来のスリーピートをかけて戦います。
前週のファーマーズ・インシュランス・オープン、最終日に4つのバーディを奪い12位で終えた松山。大会を通してショットのスタッツ(部門別データ)は冴えず、「まだそこまで(3連覇)のレベルにいっていない」と語っていましたが、練習場で見た限り、ショットの精度は高まってきているように感じました。ドライバー、アイアン、アプローチと、それぞれ解説したいと思います。
まずドライバーは直近の試合で使っているエースドライバー以外にも複数のドライバーを試打していました。練習場での球筋は問題なさそうですし、悩んでいるというよりは、今の状態にもっとも馴染むものを試していると思われます。
松山のようなPGAツアーのトッププロともなると、プレッシャーのかかった場面でいかにクラブを信用できるかがカギになります。自分のフィーリングに合った思い通りに動くような安定感のあるクラブを探すための試打なのでしょう。
次にアイアンです。ファーマーズが開催されたトーリーパインズGCのドライビングレンジの右端打席前には、練習場のネットを支えるポールが100ヤード、50ヤードの距離に練習場側にせり出して立っていました。松山はアイアンショットで100ヤードのポールをターゲットと想定してピンをデッドに狙っていく練習を重ねていました。
スウィングに大きな問題は見られず、アイアンショットの状態も上位争いができるコンディションと言えるでしょう。フェードボールは何度もポールをかすめ、時にはポールに当てる精度の高さを見せていました。そして、アイアンショットよりもさらに驚いたのはアプローチの精度です。
50ヤードの距離を練習していた松山のボールは、2球続けて50ヤードのポールに直撃しました。50ヤード先にある直径わずか15センチ足らずのポールには手で野球ボールを投げても、連続して当てられる人はそういないでしょう。人工衛星のGPS並みの精度です。練習場だったとはいえ、松山の状態はそこまで上がっています。
さて、PGAツアーのコーチは、そんな松山のスウィングをどう見ているのでしょうか。
2007年のマスターズ、そして2015年全英オープンを制した名手ザック・ジョンソンを指導する、マイク・ベンダーに話を聞きました。ベンダーは「ゴルフィングマシーン」という、スウィングを幾何学と物理の側面からとらえるティーチング理論を用いて選手を指導しています。
「松山はトップで止まる『ポージング』が特徴的でそこばかり注目されるが、基本に忠実なスイングをしていると思う。ゴルフィングマシーンで基本とされる、”ステーショナリーヘッド(頭が動かない状態)”と、フラットレフトリスト(左手甲が平らな状態)”が、常にできている」(ベンダー)
ゴルフィングマシーンでは、スウィングを”左肩を支点とした円運動”ととらえています。頭を動かさないことで支点となる左肩の動きが安定し、再現性が高まります。合わせて左手の甲が平らな状態だと、支点からボールまでの距離が変わらずミスの確率が減り、ボールにしっかりと力が伝わる事になるのです。
松山自身がゴルフィングマシーンの考え方を取り入れているかは不明ですが、ショットの正確性は単に感覚が優れているだけのものではなく、トップ選手を見てきたコーチが太鼓判を押す、理論的にも裏打ちされているのです。
マシーンのようなショットの正確性を武器に、相性のいいフェニックスオープンで“スリーピート”の偉業を成し遂げてくれるか注目したいと思います。
写真提供/吉田洋一郎