「ナンバー1ファン」とともに戦った一週間
先のウェイスト・マネジメント・フェニックス・オープンの舞台裏でひとりの少年とリッキー・ファウラーの物語があった。
米ツアーでもっともギャラリーが多いことで知られる同大会。今年も3日目には史上最多の21万6818人を動員するなど、日本では考えられないような規模で開催されている。
ギャラリーの1番人気は一昨年、松山英樹とのプレーオフで惜敗を喫したものの、毎年優勝争いに絡んでいるファウラーだ。その彼が大会中被っていた帽子にひとりの少年の写真が貼り付けられていた。
グリフィン・コーネル君。1月23日に7年という短い生涯を閉じた少年のありし日の肖像だ。
「もう5年くらい前になるかな。グリフィンとはここ(ウェイスト・マネジメント・フェニックス・オープン)で出会ったんだ。当時彼はまだ2、3歳。でも本当にゴルフが大好きな子だった。すぐに打ち解け僕のナンバー1ファンに任命した。毎年彼と彼の家族に会うのを僕とキャディのジョーは楽しみにしていたんだ」
生まれながらに気管支に疾患を抱えていたグリフィン君は、幾度となく手術を受けなければならない過酷な運命に立ち向かっていた。だがファウラーと会うときはいつも満面の笑顔。
「僕がミスをしても彼は明るい顔でガッツポーズを作り、その仕草で頑張れと応援してくれたんだ」
ファウラーにとって大切な大切な1番のファン。幼い友の他界を知り、大会に懸ける思いを一掃強くした彼はインスラグラムに少年とのツーショット写真を投稿。
「今週はいつもと違って僕のナンバー1ファンがそばにいてくれない。 グリフィン! 彼は先週天に召されました。(中略)君は僕にとって永遠のレジェンド。そしてこれからもチームの一員だよ。冥福を祈ります」と綴っている。
亡き友の思いに応えるべく走り出したファウラーは3日目まで優勝争いの先頭を快走した。だが最終日は思うようなプレーができず、勝負どころの終盤15番から3連続ボギーを叩いて11位タイに甘んじた。
悔しかった。命を閉じた小さな友の期待に応えられず今大会は「人生でもっとも悔いの残る思い出のひとつ」になった。
だがここで立ち止まるわけにはいかない。グリフィン君に教えてられた「人生にはゴルフより大切なものがある」という教訓を深く胸に刻み、ファウラーは前を向く。これからも地上で戦う彼を天国のグリフィン君は笑顔で見守ってくれるはずだ。
写真/岡沢裕行