ウィとミケルソンのセッティングの中身は、クラブは似ていても“大違い”
まずは、ミケルソンとウィのセッティングを見比べてみよう。
【ミッシェル・ウィのセッティング】
ドライバー:ローグ(10.5度)
フェアウェイウッド:GBBエピック(15度、21度)
フェアウェイウッド:ローグ(19度、25度)
6番、7番アイアン:ローグプロ
8番〜PW:Xフォージド(2018年モデル)
ウェッジ:マクダディ4(52度、56度、60度)
パター:オデッセイ Oワークスレッド#1プロト
ボール:クロムソフトX
ウィのセッティングは、我々アマチュアゴルファーが是非お手本にしたいような、「やさしさ重視」を感じさせる14本だ。フェアウェイウッドは15度から25度まで4本いれてロングゲームに対応しつつ、6番、7番アイアンもやさしいプロモデルをチョイス。
セッティングに純然たるプロモデルが登場するのは8番アイアンからで、45度のピッチングウェッジの下には単品ウェッジであるマクダディ4の52度、56度、60度をつなぎ、ロングゲームからショートゲームまで、飛ばす・運ぶ・狙うと役割分担された14本には隙がない。
では、一方のミケルソンの14本を見てみよう。
ドライバー:ローグサブゼロ(9.0度)
フェアウェイウッド:ローグサブゼロ(13.5度)
ユーティリティ:ローグ(19度)
4番アイアン:エピックプロ
5番〜PW:Xフォージド(2018年モデル)
ウェッジ:マクダディPMグラインド(56°、60°、64°)
パター:オデッセイ バーサ#9プロト
ボール:クロムソフトX
ウィと、ところどころ同じようなクラブを使っているが、そのセッティングは(スペック面を抜きにしても)まったく異なる。地面にあるボールを打つためのウッドはユーティリティも含めてわずかに2本。注目すべきは、ウェッジのセッティングだ。ピッチングウェッジのロフトはウィと同じく45度。そこから56度、60度、64度とつないでいる。
キャディバッグになぜ14本もクラブを入れるのかといえば、それは「距離を打ち分けるため」に他ならない。次に、長さと並んで飛距離に大きな影響を与えるロフト角から、両者のセッティングを比較してみよう。
【ウィ】10.5度、15度、19度、21度、25度、27度、31度、37度、41度、45度、52度、56度、60度
【ミケ】9度、13.5度、19度、21.5度、26度、29度、33度、37度、41度、45度、56度、60度、64度
と、このようになる。ウィのセッティングは、ウッドの多さが目につくが、ロフトだけ見ればほぼ教科書通りといえ、ロフト間のギャップは最大で7度が一箇所あるだけ。ゆえに、ドライバーからウェッジにかけて、基本的にはクラブを変えるだけで距離を打ち分けることが可能であるはずだ。
それに対し、ミケルソンは45度と56度の間に11度ものギャップがある。3番手ほどの穴が空いていることになり、両者を打ち比べれば、少なくともざっと30ヤードくらいは飛距離が変わってくるはずだ。
ミケルソンは100〜125ヤードのショットを“あまり打たない”!?
なぜミケルソンはこのように「目に見える穴がある」セッティングを採用するのか。「理由はふたつ考えられます」というのは、みんなのゴルフダイジェスト編集部員でプロゴルファーの中村修だ。
「ひとつは、中途半端な距離はピッチングウェッジのコントロールショットでまかなえるという自信。そしてもうひとつ、おそらくミケルソンにとって、56度で打つであろう100ヤード前後から、ピッチングで打つであろう130ヤード前後の距離は“あまり残らない”のではないでしょうか」(中村)
データを紐解いてみても、ミケルソンは昨年150〜175ヤードのレンジから60回ショットした記録が残っているのに対して、100〜125ヤードのレンジからは35回しかショットしていない。その一方で、もっと短い50〜125ヤードのレンジからは83回ショットした記録が残っている。
打つ機会が少ないのならば、そこのセッティングは“薄く”して、ミケルソンの生命線であるグリーン周りのショットで使えるクラブを増やしているのではないかというわけだ。
マスターズでドライバーを2本入れるセッティングを披露したり、かと思えばドライバーを抜いてスプーン(3番ウッド)を2本入れたり……と、大会ごと、あるいはその日ごとにセッティングを変え、柔軟な発想でコースを攻略してきたミケルソン。もちろん、今回の優勝セッティングも、次の試合ではあっさり違うものになっている可能性は大いにある。
ロフトは4度前後のピッチでドライバーからサンドウェッジまでフローしているのが理想。そんな常識にとらわれず、合理的思考で結果を出す。世界一柔軟な発想を持つ男・ミケルソンにとって、11度のロフトの“空白”など、あってなきがごときものなのかも。
写真/姉崎正、横山博昭