ラームのブレイクを見通していた欧米のコーチたち
プロ入り前のアリゾナ州立大学時代からアマチュアの世界ランクで1位になるなど実績十分だったスペイン出身のジョン・ラーム。「実力通りの活躍だ」という人もいますが、アマチュア時代に活躍をしても、プロに入って鳴かず飛ばずの選手もいます。
しかしラームは、ルーキーイヤーからPGAツアーで1勝、ヨーロピアンツアーで2勝を挙げ、その実力をいかんなく発揮しました。
昨年のマスターズ前に欧米の有名コーチたちに優勝予想を聞いたところ、ルーキーのラームの名前を挙げるコーチが多くいたことに驚きました。当初から欧米ではラームの才能やポテンシャルの高さが注目されていました。現在の世界ランキング4位までの選手の名前にJが付く(編集部注:ダスティン・ジョンソン、ジャスティン・トーマス、ジョン・ラーム、ジョーダン・スピース。2018年3月15日現在)ことから「4J」時代の到来とも言われていますが、今後最も飛躍する可能性を秘めているのはジョン・ラームでしょう。
ラームのラウンドを見ていると豪打に目が行きますが、パッティングやショートゲームの上手さがショットを活かしている事が分かります。特に3~5メートルのミドルパットの精度が高く、ピンに絡まなくてもバーディが取れる選手です。2017年シーズン、ストローク・ゲインド・パッティング(パッティングの貢献度を測る指数)はPGAツアー全体で3位でした。昨年のファーマーズインシュランスオープンでも、最終ホールで長いパットを沈めてPGAツアーの初優勝をもぎ取っています。
ショットが良ければアイアンショットでバーディを獲り、ショットが冴えなければセーフティゾーンからパットでバーディを獲れる。プレーヤーのタイプとしてはアプローチとパットの上手いダスティン・ジョンソンのようなイメージです。
マスターズでは高速グリーンに順応することが求められますが、ラームの繊細なタッチが活きることでしょう。
課題は“アンガーマネジメント”
ラームはプロ入りからまだ2年余り、年齢も23歳と若いプレーヤーです。そのためかプレー中でもクラブを放り投げてしまうなど、感情を表に出すシーンがよく見られます。ファーマーズ インシュランス オープンの練習日にラームの組について回りましたが、ショットの調子が良くなく、かなりイラついた様子でラウンドをしていました。昔よりは改善しているものの今後はアンガー(怒り)マネジメントを更に向上させていく必要があるでしょう。
そんな若いラームの支えとなっているのがマネージメントを行っている、ティム・ミケルソンです。ティムはフィル・ミケルソンの弟で、兄のフィルのキャディも務めています。ティムはラームの母校、アリゾナ州立大学のコーチを務めていたこともあり、若いラームのサポートを行っています。
「僕は技術的な事を教えているわけじゃない。マネジメントをしているだけさ」と言うティム。
「試合中にバックを担ぎながら電話をしたいほど忙しいよ」
西海岸育ちの陽気なティムは冗談を言いながら、練習場でフィル・ミケルソンのバッグを担いでラームのスポンサーとの調整や取材の電話対応をしていました。
プロになり試合数が急激に増え、さらにPGAツアーで優勝したことで周囲の環境は劇的に変わりました。そんな中フィル・ミケルソンという偉大なメジャーチャンピオンを近くで支えてきたサポーターが、ラームの大きな支えとなっているのは間違いないでしょう。
昨年のマスターズの練習日にミケルソンと同じ組でラウンドしていたラーム。マスターズを3度制した同じアリゾナ州立大の先輩から、オーガスタの攻略法を伝授されていることでしょう。
ここ2年の4大メジャー競技では8人中7人がメジャー初優勝者でした。メジャー未勝利のラームが「チーム ミケルソン」の力を借りることで、スペイン勢が2年連続でグリーンジャケットに袖を通すかもしれません。
写真/姉崎正