いつでも動き出せるアドレスが当然
たとえば、陸上競技、100メートル走のスタートをイメージしてみてください。ランナーたちは、地面に着いた手よりも頭を大きく前に出していますよね。あれは頭を前に出してバランスを崩すことで、最高のスタートダッシュをかけようとしているのです。頭を前に出すことで、いつでも足が前に出て、動き出せる体勢になっているわけです。
ゴルフの場合も、アドレスというのは、動き出すための準備姿勢であることが大切です。そのためには、どっしりと安定して押されても動かないような構えではなく、ほんの少しのきっかけで、体全体がすぐに動き出せる構えを作る必要があるのです。
――まさか、陸上のように頭を突き出して、前のめりになるわけじゃないですよね。
そのまさかです。まずはスタンスを歩幅に広げて真っすぐ立ってください。このとき、目線は20メートル先を漠然と見るようにします。
――なぜ、20メートル先を見るような目線なのですか。
構えようとするとき、ほとんどの人は、まずボールに目線を向けるはずです。これは何度も繰り返しますが「ボールに当てよう」という気持ちが強いためです。
いきなり地面の上にあるボールを見ようとすると、首を不自然に曲げたり、眼球を下に向けるような動作になり、すぐに動き出せる体勢からはかけ離れてしまいます。だから20メートル先を見て、自然体で立てるようにするのです。
この状態から両ひざを伸ばしたまま、頭を前に前に倒しながら、足首から前傾していきます。これ以上前傾したら倒れてしまいそうなところまできたら、そこが自然に動き出せる位置。その位置で両ひざを軽く曲げてみてください。これが体のスムーズな動きを引き出せる体勢です。両かかとが浮くぐらいでいいでしょう。ものすごく違和感があるかもしれませんが、プロのアドレスは、みなこの体勢です。
――アドレスの手順を詳しく教えてください。
まず、真っすぐ立った状態で、両腕をわきに垂らしてください。そして両わきを体につけたまま両ひじを曲げて、左右の手を胸の高さまで上げ、両手を合わせてクラブを立てて持ちます。このとき、目線は20メートル先を漠然と見ます。
この状態から両ひざを伸ばしたまま前傾し、両かかとが浮き、前に倒れそうになったら両ひざを軽く曲げ、クラブヘッドを地面まで下ろして、ボールをセットしてください。これで動き出せるアドレスの完成です。
――両足かかとが浮きそうで、しかもかなりつま先にウエイトがかかった感じになりますが、これでいいのでしょうか。
アドレスで静止状態を作らないためには、かかとを浮かせて構えたほうがいいのです。足の裏をべったりと地面に着けた状態なら、いくらでも止まったままでいることができますが、じっと止まっているのは難しいでしょう。つまり、たった5ミリ、かかとを浮かせるだけで、体は「静止した状態」ではなく、「動いている状態」になるわけです。多くのアマチュアは、アドレスは静止状態だと思っているようですが、アドレスで体の動きを完全に止めると、そこから動き出すのが難しくなってしまうんです。スムーズにスウィングを始動できなくなるわけです。
さらに、つま先ウエイトのほうがフットワークしやすいのです。なぜなら、フットワークはつま先を中心にして行うものだからです。
「ネジらない!から遠くへ飛ぶ、ピンに寄る。」(ゴルフダイジェスト新書)より
写真/松岡誠一郎