高打ち出し&ロースピン。大型ヘッド&長尺で増すキケンがある
同伴者がドライバーショット。飛び出す角度を後ろで見ていて、思わず“危ない!”と背筋が凍る思いをしたことがないだろうか? とくにプッシュアウト系の強い球。打ち出しが高くバックスピンも少ないため、右の林を余裕で越えて、隣ホールのフェアウェイのど真ん中まで行ってしまう。ここにゴルファーがいたら……とゾクッとしてしまうのだ。
ご存知のとおり、高打ち出し&ロースピンは現在のドライバー開発においては、飛距離アップ策の基本のキといえるものである。バックスピンが多く吹き上がってしまっていた弾道を、スピンを減らし打ち出しを高くすることで、放物線を大きくキャリーを伸ばしていくのである。
また、ヘッドスピードアップのためにシャフトは45インチ以上と長く、軽く、しなやかになっており、その先端にはミスヒットにやさしいといわれる大きくて重ためのヘッドが付いている。“加速”というキーワードが登場するように、とにかくビュンビュンと気持ち良く振っていけ、飛ばしのエンジンであるインパクトエネルギーが大きくなるため、“ボール初速”がアップするのだ。
この進化を続ける飛び要素が、今まさに自分がプレーしているホールの範囲で発揮されているぶんにはまったく問題がない。問題なのは、時折飛び出す、想定外のプッシュアウト。気持ちよく振れたときほど、そんな球が出るという感覚があるゴルファーも多いと思う。飛距離アップのためにシャフトを長く、しなやかに、ヘッドを重たくしたことによる弊害が、右に飛びやすいということ。つまり、プッシュアウトなのだ。
ホールを区切る林、角にあるバンカー。設計者の安全策を超える飛びはキケン
日本のゴルフコースは、各ホールが背の高い木でセパレートされているケースが多いが、これは美観や戦略性を持たせるだけでなく、ボールが隣接ホールに飛び込むことを防ぐ“防御壁”としての役割がある。ドッグレッグホールなどで真正面にフェアウェイバンカーがあったり、コーナーに高い木が密集していたりするのも、“球止め”の意味合いがあるわけだ。
最近、ゴルフクラブの進化は樹木の成長よりも早いのかな、と思う。以前は気にならなかったが、気がつけば林、つまり“防御壁”を軽々とボールが越えている。ドッグレッグホールのコーナーでも、球止めバンカーをも越えて突き抜けてしまっている。設計者の安全策を越えて、ボールが飛ぶようになっているのだ。これはゴルフ練習場のネットの高さにも表れている。筆者が事務所を置く大型練習場のネットも、ここ数年でどんどん高くなっている。もちろん、最近のドライバーは打ち出し角度が高いため、場外にボールが飛び出す可能性があるからである。
この大きな飛び。何度も書くが、狙った方向に、範囲に、飛び出していればなんの問題もない。しかし、飛ぶ、つまり滞空時間が長くなればなるほど、インパクトでのわずかなフェース向きのズレが落下地点では大きなブレとなる。飛ぶほどに、シビアなインパクト状況が求められる。それが普通なのである。400ヤードを飛ばすPGAのプレーヤーは、最新のよく飛ぶドライバーを使っているが、それでフェアウェイをキープするハイレベルのスキルも、たゆまぬ練習によって身につけている。そここそがリスペクトすべきところだ。
大きな飛びはゴルフの魅力のひとつである。しかし、コントロールしきれない飛びが予期せぬ事態、端的に言えば“打球事故”につながらなければよいが……、と個人的には心配している。それは、様々なメーカーに取材し、現在のゴルフクラブがいかに飛び性能に優れているかを知っているからだ。
ゴルフルールを統括するR&A(全英ゴルフ協会)では、ゴルフクラブの長さを46インチまでに制限する改定案を提案しているが、これには飛びを規制することでゴルフの難しさを守る、という目的があるのだと思う。しかし、ここでは見方を変えてみたい。長さを規制することでコントロール性が向上し、結果として、ゴルファーの安全を守ることになるのではないだろうか。
ゴルフは、自分のホールで行うもの。大きな放物線は自分のホールの範囲で描くものだ。狙った枠の中にボールを打ち出すこと。それが飛距離の出るゴルファーの責任であり、努力すべきことであると思う。隣ホールのプレーヤーに頭を下げるたび、頭を下げられるたびに思う。当てなくてよかった、当たらなくてよかった、と。ロングヒッターが増えてきた時代、本格ゴルフシーズンを迎えた春、こんなことを書いてみたくなった。