ライダーカップで躍進した「キャプテンアメリカ」
マスターズ最終日の激戦を制して、初のメジャー優勝を遂げたパトリック・リード。9打差の9位タイからスタートしたジョーダン・スピースが猛烈な追い上げを見せるなど、最終日としては最高の展開だったにもかかわらず、ウェブニュースやSNS上ではそれほど盛り上がりを見せませんでした。
同じ日に大リーグ、ロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平投手の快投や、サッカー日本代表のハリルホジッチ監督解任のニュースが報じられたのは不運としか言いようがないのですが……。
そんな日本人にはあまり馴染みのないリードですが、アメリカではPGA(米男子)ツアートップクラスの知名度を誇る選手の一人です。彼の存在を大きく世に知らしめたのが、16年のライダーカップ(米国と欧州の対抗戦)でした。
私は会場のヘイゼルティンナショナルGCに実際に足を運びましたが、ライダーカップはエキシビジョンマッチではなく自国の誇りと名誉を懸けた、メジャーに匹敵する真剣勝負の場であるということを肌で感じました。
米国民が熱狂的な応援をする舞台で、リードは今回優勝争いを演じたジョーダン・スピースやリッキー・ファウラーとともに米国代表として選出され、もっともポイントを獲得したプレーヤーとなり米国の勝利に大きく貢献しました。
リードはスピースと初日、2日目にコンビを組み米国のエースとしてヘンリク・ステンソン、ジャスティン・ローズの無敗コンビと対戦しましたが、見事にポイント奪取をしてチームを勢いづけました。さらに最終日もロリー・マキロイとのシングルマッチ対決で激闘を繰り広げ、最終18番でリードが1UPとして米国選抜に勝利をもたらしたのです。その活躍以降、リードは「キャプテンアメリカ」と呼ばれるようになります。
リードの、自らをガッツポーズで鼓舞して、観客を巻き込み会場を盛り上げていくプレースタイルは、格闘技を彷彿とさせるアグレッシブなものでした。私は米国、欧州のどちらにも感情移入せずにプレーを見ていましたが、リードの勝負強く、気迫あふれるプレーに「ゴルフってこんなにエキサイティングなものだったっけ?」と思わされるほどの興奮を覚えました。
そんなリードのパフォーマンスコーチを務めるジョシュ・グレゴリーはその性格を「生粋の負けず嫌い」と表現しています。
「ライダーカップの時のようにプレー中に大きな声を出すのは褒められたことでないかもしれませんが、彼は自分の感情を表に出すことで、競争相手に立ち向かおうとしているのです。大きな大会やマッチプレーで良いパフォーマンスが出せるのも、そうした負けず嫌いの性格によるものです。そしてプレーヤーとしてトップで活躍し続けるには、そうした気持ちは欠かすことのできない大切な要素です」(グレゴリー)
ガラスのグリーンを攻め続けたパッティングが最大の武器
リードは最終組となった3日目から攻めまくりました。雨が降っても風が吹いても、ボギーの後でもリードは攻めることをやめませんでした。
リードの強みは2017年にストロークスゲインドパッティング(パットのスコアへの貢献度を図る指標)で5位となった、勝負強いパッティングです。ヘッドを直線的に動かしていくストロークでカップに対しても真っすぐに攻めていき、大詰めの17、18番の短いパッティングでもゆるむことなくヒットできていました。
リードは過去、デーブ・ストックトンというパッティングの名匠とともに、パッティングのストローク構築に取り組んでいたことがあります。持ち前の負けん気とこれまでの地道な努力が、プレッシャーのかかる場面でも彼の手を動かし続けたのです。
今回のマスターズでも、カップインするたびに見られたガッツポーズ。ライダーカップでは観客を盛り上げるためのものに見えましたが、スピースに追い上げられた最終日の終盤に見せたそれは、自らを励まし奮い立たせるものに見えました。
個性的なプレースタイルや過去の言動からファンもアンチも多いリード。メジャーの残り3戦、そして今年は欧州(フランス)を舞台に行われるライダーカップで、再びファンの心を揺さぶるプレーを見せつけてくれることを、今から楽しみに待ちたいと思います。