鈴木愛の最大の強みであるパッティング
2018年の今シーズン、鈴木愛選手はまだ4戦しかしていないが優勝2回、2位、3位タイと絶好調だ。その鈴木愛の1番の強みであるパッティングにフォーカスしてみる。
過去5年の鈴木選手の平均パット数のランキングを見ると、今年はまだ4試合の出場のみとはいえ、2位とほぼ0.1差をつけてぶっちぎりの1位をキープ、2017年は僅差の2位、2016年は1位、2015年は3位、そして2016年は6位とかなり安定した結果を残している。
私は主にPGA(米男子)ツアーのデータ分析をし続けてきたが、5年ベースでこの安定感を出しているパター巧者は本当に数少なく、今年も1位をキープしたとするなら超一流と呼べる領域に入ってきていると言えそうだ。
ただ、この平均パット数はショットの精度なども影響してくるためPGAツアーにあるSGP(ストロークゲインドパット)に比べ、パッティングの上手さを比較するデータとしては不十分だ。とはいえ鈴木選手がパッティング巧者であることに変わりはないだろう。
“パター世界トップ4”と鈴木愛の共通点・相違点
パッティングはゴルフでする動作の中では最もシンプルで最も小さい。にもかかわらず、規定打数の半分である36打も占めている。ストロークは非常にシンプルで、スウィングとは違い、プレーヤーが数多くいる中で、そのストロークはみな似通っている。
変な特徴のあるストロークをするプレーヤーはいないといって良いだろう。パッティングで特徴が大きく現れる部分はストロークではなく、パターの選択、ポスチャー、グリップ、ルーティンにある。
私はそれぞれのパーツを分けて、どの部分にデータ的有意性が見られるか調べた。PGAツアーにある膨大なデータ、動画分析を経て出た結果が「3.5秒パッティング」だ。これはパターのセンターをボールにセットアップしてから、インパクトするまでの時間をデータでまとめたもので、3.5秒以内で打っているプレーヤーに圧倒的なパフォーマンスの有意性が見られたというものだ。
鈴木愛選手の場合はどうだろう。彼女はデータ的にみても非常に良いルーティンをしている。ラインを決めた後、ボールにあらかじめ引かれた線を打ち出しのラインにセットアップし、後方からそのカップとラインを見ながら基本3回丁寧に素振りをする(近い時はたまに2回)。
そしてボールと対峙するとすぐにパターのセンターをボールにセットアップし、そして脚をセットアップ、1度カップをみてからすぐにストロークといった流れだ。これはデータから見たパターの世界トップ4(ルーク・ドナルド、アーロン・バデリー、グレッグ・チャーマーズ、ブラント・スネデカー)のルーティンにも似ており非常に良いものだと言える。その理由は、距離感の確認、ライン、リズムとすべての要素を抑えているからだ。
では、データ上最も重要なパッティングにかける時間はどうだろう。パターのセンターをボールにセットアップしてからインパクトまでにかける時間は5.8秒から7.8秒だった。打つ距離に応じてストロークの大きさは変わるのが自然なので、この秒数は常に同じである必要はない。
ロングパットのほうが時間がかかる傾向は超一流プレイヤーにも共通していえることだ。ただ、パター巧者はこの差がすくない。逆にパターを苦手とするプレイヤーはショートパットは速く、ロングパット、クラッチパット(勝負所のパット)には時間がかかる傾向が見れるのも付け加えておく。
この鈴木選手の秒数では3.5秒パッティングの条件を満たしていないが、実はこのルールにはもう1つの条件がある。それはボールと対峙してから9秒以内で打つというものだ。鈴木選手の場合、ボールと対峙してから素振りをしないで、まずパターのセンターをボールにセットすることからはじめ、その後に足をセットするので多少余計に時間がかかっているが、それでも完全に9秒以内をキープしている(松山英樹選手は18秒、パッティング巧者と知られる谷原秀人選手は3.6~8秒)。この9秒以内というルールは3.5秒ルールよりやや甘くしたものだが、データ上の有意性はもちろん高いので、この数字を目安にしてもいいだろう。
ただ、あくまでデータ上最高に良いのは3.5秒のほうだ。その理由はパターをボールにセットアップしてから、土台である脚をセットアップするというのは理がかなっていないからだろう。パターのフェース面がずれる可能性があるからだ。パターの世界トップ4は全員、まず足をセットアップしてから最後にパターをセットアップする。
ボールに書かれた線がルーティーンを成立させている
鈴木選手は先にパターをボールにセットアップしているが、それでも十分な成績を残している。それには1つ理由がある。ボールに書かれた線だ。この線を打ち出したいラインにあらかじめセットしていることで足を後でセットアップしても、すでにセットアップしたパターが狙いからずれるということが極めて少ないのだろう。
ちなみにパターのトップ4は誰もボールに線を書いていない。データ上から、本当にパターを極めるにはボールにガイドラインを引くべきではないということが言えるが、これはあくまでパターを極めるという観点からである。鈴木選手はラインを決めてセットアップしたら、それを一切疑わずに打てているのが安定した成績を残せている理由だろう。彼女の考え方、性格が大きく影響していると言える。
ちなみに今回のマスターズを制したパトリック・リードも鈴木選手とほぼ同じルーティンだ。後方で行う素振りは2回で、鈴木選手より1回少ないのと、対峙してからかけているインパクトまでの時間が鈴木選手より少し(約1秒)短いぐらいで、ボールにラインも引いており、ほぼ一緒と言える。
マスターズ優勝を決めた最後のパットに要した時間も4.6秒と非常に短い。パトリック・リードも、超一流のパター巧者とまでは言わないが、ここ数年のデータを見る限りパターはかなりうまいほうだ。
パターはルーティンで確実にうまくなれる。そしてルーティンにかける時間は比較的簡単に変えられるので是非試してみてはどうだろうか。
撮影/岡沢裕行