第2、第3の小平智は必ずや現れる
今回の小平智選手の優勝は、PGAツアーで5勝を挙げている松山英樹選手の過去の勝利とはまったく異なる意味を持ちます。
まず、松山英樹選手に限りませんが、これまでPGAツアーで勝利した選手たちは皆、本拠地をアメリカに移したPGAツアーのシード選手たちでしたが、小平選手の場合は違います。彼は、あくまでも世界ランク50位以内の資格で出場した“日本ツアーの選手”。実は、非・シード選手がPGAツアーで勝つこと自体が異例も異例なのですが、それが日本ツアーから生まれたことが、日本のゴルフ界にとっての大事件なんです。小平選手の優勝は、日本の男子ツアーのレベルの高さを証明したと言えるからです。
大谷翔平選手が登場するまで、メジャーリーグで日本人選手が「二刀流」で活躍するなど想像した人もいなかったはずです。それとある意味で同じように、日本ツアーの選手が、スポット参戦でPGAツアーで勝てると思っている人もいなかったと思います。しかし、現に小平選手は勝った。
みなさんにも是非考えていただきたいのですが、昨年の賞金王・宮里優作選手、一昨年の賞金王・池田勇太選手、そして米ツアーで長く戦った石川遼選手と、小平選手。この中で、一番“強い”選手は誰だと思うでしょうか? きっと、人それぞれ違う答えが返ってくるのではないかと思います。つまり、宮里、池田、石川選手らがPGAツアーで勝っても、なにもおかしくはありません。

2017年の賞金王の宮里優作(写真左)と2016年の賞金王である池田勇太(写真右)にもPGAツアーで勝つチャンスはあるはずだ(写真/2018年のマスターズトーナメント 撮影/姉崎正)
冒頭に、今回の小平選手の勝利は、松山選手の勝利とは意味が異なると言いました。正直に言って、松山選手の勝利のニュースを聞いた多くの男子プロはこう思ったはずです「だって、松山だもん」と。松山=規格外。一般のみなさん同様、プロの間にもそういった風潮があったことは否めません。
小平選手の場合は違います。身長172センチの、日本ツアーを主戦場とする日本人選手が、日本人のゴルフで勝ったわけですから。国内でトップの座を争うライバルが、「勝てる」ことを証明した。ならば「おれも勝てるはず!」と思う選手は、決して少なくないはずですし、小平選手の後に続かなくてはいけないと思います。
強い選手が海外に行くと、国内ツアーが空洞化するという意見も一部にはありますが、そんなことはありません。だって、現に小平選手が勝ったことで、これだけゴルフ界が盛り上がっているわけですから。国内ツアーを盛り上げるためには、国内でスターを作るんじゃなくて、海外に出ていくスターを作る必要があるんです。

スポット参戦で優勝を果たした小平智。間違いなく他の日本人選手にも刺激になったはずだ(写真/2018年のWGCメキシコ選手権 撮影/姉崎正)
私は、先週の男子ツアー開幕戦「東建ホームメイトカップ」に選手として3年連続で参加しましたが、この3年のうちでもレベルはどんどん上がっているのを感じます。先に挙げた宮里、池田、石川といったトップ選手以外にも、長谷川祥平選手、小西健太選手、堀川未来夢選手など、若くて可能性を感じる選手たちがいます。
「小平選手に続け」とすべての選手たちが考えれば、日本ツアーのレベルもさらに高まります。そして、第二、第三の小平智が必ずや出てくるはずです。彼らが海外で大暴れすることで、日本の出場枠が増え、スポンサーも増え、巡り巡って国内のゴルフ界も盛り上がる。
すべてのプロたちにチャンスがあります。世界に続く可能性の扉は、小平選手がこじ開けてくれたんですから。