素振りのイメージは「いい方向」に向かっている
日本ツアーに本格的に戻ってきた石川遼だが、一週間に2つの地区大会で優勝し、その後ツアーでも優勝争いに食い込む等、さすがと思わせる戦いぶりを見せている。スウィング改造を積極的にしているイメージの強い石川だが、果たしてうまくいっているのだろうか。その新しいスウィングを統計的データ分析で紐解いてみる。
まず、もっとも気になるのはショット前にする一風変わった素振りだ。練習場では、シャフトを寝かせるイメージを強くしようとしているのが伺える。セルヒオ・ガルシア、リッキー・ファウラー等を参考にしているという話も耳にした。
実際の試合のショット前には、低くフラットなトップから、フォローにかけてはシャフトをやや縦にしていく動きを何度もやっていた。しかも切り返しでは明らかに世界の一流の多くが使うループターン(ダウンスウィングでバックスウィングの軌道よりもインサイドからクラブが下りてくる動き)を加えている。
実際の動きと違う大げさな素振りは、タイガー・ウッズ、グラエム・マクダウェル、マット・クーチャー、リッキー・ファウラー、など行う選手が多数いるので、悪いことではない。本人が自覚しているクセを矯正するためにわざと大げさにして、イメージを焼き付けるための行為だが、実際のスウィングと素振りがあまりにかけ離れていては意味がない。たとえイメージを良くしても、肝心のスウィングが実質的に変わっていなければ結果はいずれ同じになる。
とはいえ、最近の石川の取り組み方、素振りを見ているといい方向に向かっているのはたしかだ。フラットなトップ、ループターン、手元は低くと、これらすべてはデータ的、理屈的にも世界水準で推奨するものだ。
実際のスウィングは、素振りとギャップあり!?
ではこのようなイメージで振っている石川の実際のスウィングはどうだろう。重要な瞬間のコマを抜きだし分析する。
バックスウィングの腕の通り道はストレートラインだが、シャフトが素振りとは真逆でかなり立っている。そしてトップはかなり高く、アップライトなシャフトはオーバースウィング気味で、更にクロスする。切り返しでは素振りの通りループターンを使い、通ってきたプレーンに乗せてくるが、徐々に右肩が下がりシャフトがダウンスウィングの途中からややフラット気味になっていく。
この高いトップポジションの位置を考えると、ループはしているものの十分ではない。右肩が下がるというのも超一流とは逆の動きなのであまりいい傾向とは言えない。インパクトの手元は以前に比べ少し低くなってはいるが、162度と世界水準R160(編集部注:インパクト時の左手とシャフトが作る角度が160度以下であること。ゴウ・タナカが提唱する一流の条件)はまだ満たせていない。
石川選手がどこを目指しているかは定かでないのでなんとも言えないが、素振りと本番のスウィングとの大きなギャップは気になるところだ。しかし素振りのイメージはかなりいい方向に向かっているのはたしかだ。そして以前に比べスウィングが明らかに変化しているということは、石川選手自身が「スウィングを変えられる」ということ。これもプラス材料で今後の可能性を感じる。
もうひとつ以前と変わったことは、パッティングのルーティンだ。以前より構えてから打つまでが明らかに早くなっている。以前はパターをボールにセットしてからインパクトまで5秒以上確実にかかっていたのが、現在は2.6秒から4.5秒とかなり早くなった。
超一流のパット名手に共通する3.5秒以内までもう少しの水準だ。そして現時点で石川選手の平均パット数はランキング1位だ。この早くなったルーティンの影響は大きいのではないだろうか。今後の石川選手のパッティングにも注目していきたい。
グリップ、スタンス、パターなど頻繁に変えるところが気になるが、パッティングはスウィングに比べて問題なさそうなので、今後の活躍は、素振りとは違うスウィングが鍵を握ってくるだろう。小平智選手の米ツアー優勝で盛り上がる日本ゴルフ界だが、天才・石川遼にも是非日本ツアーを引き続き盛り上げていただきたい。