「パーツ」を見るのは意味がない
――ゴルフがうまくなりたかったら、うまい人のスウィングを見ることだ、とはよくいいますが、いったいどこを注意して見たらいいのでしょう。
トップ位置やインパクトの形など、多くのゴルファーはスウィングを細かくパーツに分けて考える傾向があるようです。スウィングを見るときも、どうしてもパーツに目がいきがちですが、それは意味のないことです。
――部分部分、パーツにこだわることは、そんなに意味のないことでしょうか。
ゴルフのスウィングというのは、バックスウィングを始めてからフィニッシュまで、わずか1~2秒しかない「瞬間芸」なのです。まばたきをする暇もないぐらい、一瞬で終わってしまうスウィングの、それも一部分を取り出して、その形だけを真似しようとしても無理ですし、細部にこだわっていたら、スムーズにスウィングすることが疎かになってしまいます。
――では、たとえば増田プロは、スウィングの何を見るんですか。
スウィングの基本は「いかにきれいでスムーズな円を作るか」だと、私は考えています。いったんスウィングがスタートしたら、体のどの部分も止まることなく、フィニッシュまで一気にヘッドが駆け抜けていく。だから私は、ゴルファーの円弧を見ます。ヘッドが描くスウィングの円を見て、ゴルファーのレベルや課題をチェックします。私にとって、スウィングを教えるということは、円の描き方を教えるようなものです。
――自分がスウィングするときも、円を意識しなくてはいけないのでしょうか。どちらかというと、多くのゴルファーは「スクェアに立つ」とか「30センチ真っすぐ上げる」とか、真っすぐ、直線をイメージすることが多いかと思います。ボールが曲がると「スクェアにインパクトできなかったからだ」といわれますよね。
スムーズな円を描くためには、スウィングに角があってはいけないんです。角をつくらないためには脱力することも大事ですが、スウィング中の直線感覚は厳禁。たとえば「30センチ真っすぐ引け」などといわれると、多くの人はクラブヘッドを地面と平行に、しかも真上から見て30センチ、直線的に引こうとするでしょう。地面と平行に真っすぐヘッドを引いて、そこからクラブを上げようとすれば、そこに角ができてしまいますよね。私が直線をイメージすると角ができる、というのはそういうことです。
――直線がいいとか、物理的にナンセンスとかいうよりも、途切れてしまうんですね、スウィングの流れが。
スウィングをパーツにして、一部分だけを真似ようとするのも同じことで、静止した状態の一瞬の形を意識した途端に、その部分に角ができて、丸にならなくなってしまうんです。
――日本人はまじめだからかもしれませんが、真っすぐ、スクェアが好きですよね。
パッティングがいい例です。打ち出す方向に対して、フェースを真っすぐセットしたら、スタンスからひざ、腰、肩のラインをすべてスクェアにし、真っすぐ引いて真っすぐ出すのが、「パッティングの基本」といわれています。しかい、なにからなにまで完璧にスクェアにしようとすれば、ほんのちょっとした狂いも気になってくる。スクェア志向でカップに入っているときはいいですが、一旦外れ出すと、どんどん迷いが出て、遂には動けなくなってしまう。これがいわゆる「イップス」と呼ばれるものです。通常のショットも含めて、真っすぐにこだわり過ぎるのは、角ができることもそうですが、地上から10メートルの高さの平均台の上を敢えて渡るようなもので、自分で自分を追い込むだけなのです。
――ゴルフの場合、完璧主義、潔癖症はよくないんですね。やはり若者のように笑顔だ。
スウィングだけでなく、コースマネジメントもそうです。ホールで直線やストレートを意識し過ぎるのも、意味がなく危険なことだと私は考えています。従って、私がターゲットに対しての球筋をイメージするときは「波線」です。
――はあ? 波線って、「~」の波線ですか。
そもそもゴルフのコースはティグラウンドからグリーンまで一直線は稀で、ほとんどが右や左に、あるいは波線状に曲がっているんですから、そのほうが自然じゃないですか。それに気持ち的にも波線のほうが微笑みながら打てます。狙った場所へ直線的に運ぼうとするから、気持ちが窮屈になって、スムーズな円が描けなくなってしまうんです。
波線だと気持ち悪いという人は、限りなく直線に近い波線をイメージすればいいでしょう。たとえば電波。直線に感じますが、ミクロでみればこれは波線ですよね。とにかく「直線ではなく、波だからアバウトでいいんだ」と思うだけでも、ショットはずっと楽になるものです。
「ネジらない!から遠くへ飛ぶ、ピンによる。」(ゴルフダイジェスト新書)より