現在3年連続フェアウェイキープ1位継続中
距離7324ヤードで硬く速いグリーンで50歳の谷口徹が勝ったことは、ほかのすべての選手が参考にすべきマネジメントや技術があったということ。その中で1打差の3位で終えた飛距離270ヤードでランク110位の稲森佑貴は谷口の後を継ぐ存在だと中村は言う。
稲森佑貴選手といえば、2015年から3年連続でフェアウェイキープ率1位という“フェアウェイキープの鬼”とも言える選手。2018年の今も同ランク1位を快走しており、4年連続となれば2005年から3年連続でフェアウェイキープ1位を達成した井戸木鴻樹さんを抜き、史上初の偉業となります。
もうひとつ、パーキープ率も3位で、それだけボギーを打たないプレースタイルの選手です。1バーディノーボギーなら1アンダーでフィニッシュできるということを本当によく理解していて、4日間そんな自分のゴルフを曲げずに続けられる強さがあるところ素晴らしいところです。
同じプロゴルファーの立場からいうと、1バーディノーボギーのゴルフは決して簡単ではありません。まず、そもそもノーボギーが難しい。むしろ、5バーディ4ボギーのほうが簡単に感じられるんです。18ホールを通じて欲を抑えてボギーを防ぎ続ける。これは、誰にでもできることではありません。
日本プロ最終日のテレビ中継で、解説の丸山茂樹さんが稲森選手を「平成の杉原輝雄」と称していましたが、ボールコントロールに優れた大名手、故・杉原輝雄プロの名前が出てくるのも納得がいきます。ひとつだけ、平均パット数が1.8072で76位なので、この部分を改善できれば初優勝はすぐにでもできるはずです。
日本プロの練習日に、稲森プロに話を聞いたのですが、そのときも「とにかくフェアウェイキープがカギになる」と話していました。決して飛ばし屋だけが優位なセッティングではないと私自身感じていたので、「稲森君に向いているんじゃない?」と水を向けると、「そうですね、頑張ります!」としっかり自覚している様子でした。
そんな稲森佑貴選手は、ではなんで曲がらないのかですが、スウィングに関して、本人は以前「手元とヘッド、そしてボールを頂点に二等辺三角形を描くイメージで構え、フェースの開閉を少なくしてボールをとらえやすくしています」と語っていました。また、右手のひらをフェース面だと意識して、右手一本打ちなどのドリルも取り入れているそうです。
いずれも、ボールを叩いて飛ばすというよりもボールを運ぶというイメージで、コントロールを主眼としていることがわかります。ボールを飛ばすではなく運ぶ意識を持てば、自ずとフェアウェイキープ率は上がります。もちろん振り切ってはいるのですが、どこまで飛ぶかはボールに聞いてくれ、という意識ではなく、狙った距離をきっちりと打つような意識を持っているのでしょう。
これを言い換えれば、「自分の飛距離でゴルフができている」ということになります。同伴プレーヤーの飛距離に惑わされてメンタルやコース攻略に影響を及ぼすことなく、自分の飛距離に応じたマネジメントを徹底することで、ナイスショットの確率を増やし、スコアをまとめることができます。
トーナメントの現場では、どうしても飛距離が出る派手な選手に目を奪われがちですが、稲森選手の玄人好みな、渋いゴルフは注目に値します。飛距離は出ないけれども、ボールもプレースタイルも曲げずに戦う“平成の杉原輝雄”の今後の活躍に、ますます期待したいと思います。
撮影/姉崎正