VG3タイプDの7番、AP1の6番、AP2の5番は全部同ロフト
“プラス2番手の飛び”が謳い文句で、実際に従来の番手の概念を覆すほどの飛距離を持つヤマハの「インプレスUD+2」のヒット以来、ゴルフ界では飛び系アイアンがブームの真っ最中。同じ距離を打つなら短い番手のほうがいいに決まっているが、一方で飛び系アイアンは「番手の数字を書き換えただけ」という批判にもさらされ続けている。
果たして、今の飛び系の7番アイアンは、「7番という刻印が彫られた5番アイアン」に過ぎないのか。あるいは、5番の飛びと7番のやさしさを兼ね備えたアイアンの進化系なのか!? そのあたりをたしかめるべく、テストを実施した。
用意したのは、タイトリストの飛び系アイアン「VG3タイプD」の7番、セミアスリートモデル「718AP1」の6番、そしてプロモデルである「718AP2」の5番だ。この3本、番手は異なれどロフトは同じ26度。もちろん長さや重さは微妙に異なるが、この3本を打ち比べると飛距離と番手の関係について、なにか見えてくるものがありそうな気がする。
スペックをまとめると、
VG3タイプD(7番アイアン、ロフト26度、長さ37インチ、重量375グラム)
718AP1(6番アイアン、ロフト26度、長さ37.5インチ、重量380グラム)
718AP2(5番アイアン、ロフト26度、長さ38インチ、重量413グラム)
となる。
AP2のみスチールシャフトで、残りの2本はカーボンだ。ロフトは同じだが、長さは番手が上がるについて、半インチずつ長くなっている。
番手どころかコンセプトからして方向性が違うこの3モデル。共通点はロフト角が26度であるということくらいだ。そんな3本を、みんなのゴルフダイジェスト編集部員でプロゴルファーの中村修が試打し、新橋ゴルフスタジオのシミュレーターで飛距離データをチェックした。その結果を表1にまとめた。
5球打った平均を見ると、番手が一番上のAP2が一番飛ばないという結果となった。これはヘッドスピードに対するボール初速の違い(後述)と、プロモデルだけに芯を外した場合の飛距離の落ち込みが大きかったのが原因。
逆に一番飛んだのはどれか? と問われれば、それはAP1の6番ということになる。しかし、特筆すべきはむしろVG3タイプDの試打結果だろう。最大飛距離と平均飛距離がほぼイコールで結ばれる安定感は驚異的だ。
「同じロフトで番手違いのアイアンを同時に打つのは初体験でした。当たり前ですが、ロフトが同じでもモデルと番手が違えば打ち心地はまったく異なります。端的に、VG3は一番やさしい。芯を外しても飛距離が落ちず、安定して飛ばせます。それに対して、AP2はやっぱりプロモデルの5番アイアンですから、決してやさしくはありません。同じロフト26度でも、『7番は7番、5番は5番』という感覚。VG3の場合、“7番なのに飛ぶ”という印象でした」
中村のマイクラブでの飛距離は5番で188ヤード、6番で178ヤード、7番で165ヤード。5番の飛距離は同じ5番のAP2とほぼ同じだったが、AP1の6番とは1番手、VG3の7番に至っては2番手半も余計に飛んでいた。
ロフトが同じ、長さは短いのになぜ飛ぶのか? 注目すべきポイントは、ヘッドスピードと初速の関係だ。
VG3タイプD:ヘッドスピード35.7m/s、ボール初速51.5m/s ヘッドスピード対ボール初速:1.44
AP1:ヘッドスピード37m/s、ボール初速51.5m/s ヘッドスピード対ボール初速:1.39
AP2:ヘッドスピード40.6m/s、ボール初速49.1m/s ヘッドスピード対ボール初速:1.20
クラブ全長の違いからくるヘッドスピードの違いは顕著に表れたが、初速に関してはむしろAP1やVG3タイプDのほうが出ている。アイアンは飛べばいいわけではないので、「狙った距離を打つ」性能に特化したAP2は、飛距離性能では他の2モデルにはおよばなくて当然だが、VG3タイプDは素材や設計によって、フェースの反発力を高めることで、ヘッドスピード以上に飛ばせる。
VG3アイアンのピッチングウェッジのロフトは44度だから、もしその下に52度のウェッジをあわせるとしたら、その中間を埋める48度前後のウェッジが必要になる。しかし、7番のやさしさで5番の距離が打てることを魅力と考えるなら、ウェッジを1本足す価値はある。2番手分飛ぶことで、それでもトータルで“得をする”と考えることも可能だからだ。中村は、試打した感想をこうまとめる。
「ロフトが同じで番手が違う3モデルを打ち比べてみて、それぞれマッチするのゴルファーがいるはずだし、マッチしたセッティングを選ぶことでストレスなくゴルフを楽しみながらスコアメークできると感じましたね」(中村)
狙った以上に飛んでほしくないならAP2(プロモデル)がいい。番手以上の飛びを求めるならVG3タイプD(飛び系)がいい。その中間のAP1(セミアスリート〜アベレージ向けキャビティ)を求める層も多いはずだ。どれを選ぶかはプレーヤー次第だが、現代の飛び系アイアンは「番手の刻印を付け替えただけ」というわけでは決してなく、番手なりのやさしさと、番手以上の飛びを併せ持っているというのも、また事実のようだ。
取材協力/新橋ゴルフスタジオ