奇跡の上に、奇跡を上書きするシンデレラストーリー
一週間で人生が劇的に変わったゴルフ界のシンデレラボーイ、秋吉翔太。先週月曜日に行われた全米オープンの予選会をトップ通過して初めてのメジャー出場権を獲得し、その3日後に開幕した全長8000ヤード超でセッティングされたミズノオープンを唯一のアンダーパーで勝利し全英オープンの切符も獲得しました。
しかし、一年前の秋吉は今の自分自身の状況を想像できていたでしょうか。昨年の今頃、秋吉はレギュラーツアーに出場することさえできませんでした。2017年シーズンの出場優先度を決めるQTランクは76位で、レギュラーツアーの出場権を持っていなかったため、7月末に開催されたダンロップ・スリクソン福島オープンで予選会を通過するまでレギュラーツアーに出場できませんでした。
そのマンデートーナメントから得たチャンスを逃さず6位に食い込み、年間のツアー出場資格が限定的な選手でも出場資格を得られる「フォールシャッフル」リランキング制度を活用して出場試合数を伸ばしていきます。そして、日本オープンでは自己ベストの4位をとる活躍などもあり、ツアーの出場資格を持たずに出場試合13試合で賞金ランキング43位となり初めてのシード権を獲得しました。2018年シーズンは中日クラウンズで最終日最終組に入り、優勝争いに絡むなどツアーでも存在感を増していました。
フェース面の開閉でパッティングが劇的に向上
2015年にチャレンジツアーで2勝し、賞金ランキング2位となった実績を持つ秋吉は以前からショットには定評がありました。
「秋吉は実力があるので普通にやれば何回も勝つチャンスはあると思っていましたよ。中日クラウンズでの優勝争いが自信になって今回の結果につながったんじゃないですかね」
そう語るのは、昨年から九州が同郷という縁で練習ラウンドを共にするようになったという2014年賞金王の小田孔明。小田は、持ち球のフェードを駆使しながら、状況に応じてドローも操るショットメーカー・秋吉の実力を高く評価していました。
今週日本ゴルフツアー選手権が開催される宍戸ヒルズの練習ラウンドでは、難関17番ホールを得意のフェードボールでいとも簡単に攻略していました。
「今までとの一番の違いはパッティングですね。フェースを開いて閉じる動きに変えてから3メートルくらいの距離がよく入るようになりました。ショットと同じイメージでストロークできるようになったので、パッティングに自信が持てるようになりました」(秋吉)
秋吉は昨年までパターのフェース面を開閉させずに「まっすぐ引いてまっすぐ出す」打ち方だったと言います。しかし、肝心な場面で緩んだり押し出したりするミスが出て、大事なパットを決めきれずにいました。そのミスを解消するためにバックスウィングでフェースを開き、インパクトからフォローで閉じるフェースを開閉する動きに変えたことで球の転がりが改善されたようです。
「フェース面を変えずにまっすぐ引こうとすると、アウトサイドにバックスウィングが上がって、インパクトで緩む動きになっていました」(秋吉)
世界のパッティングコーチの指導法には大きく分けてフェースの開閉をせずストレート軌道で打つ「直線派」と、フェースの開閉を行ってインtoイン軌道で打つ「振り子派」の2種類があります。
秋吉の体の動きの傾向はショットからパッティングまで胸郭を中心とした回転運動が多い「振り子派」タイプです。その「振り子派」の体の動きと、フェースの開閉をせずまっすぐに手元を動かす「直線派」の動きのミスマッチによって、アウトサイドに上がり、アウトサイドに出る「アウトtoアウト」の軌道になり、それが緩みや押し出しの原因となっていたのでしょう。
秋吉の場合、元々持っている体の特性にフェースの開閉を組み合わせることで質の高い「振り子派」のストロークが完成したと思います。
アマチュアでも同じようにまっすぐに引こうとしてアウトサイドに上がっている人を多く見かけます。アウトサイドにバックスウィング上げると、インパクトでフェースが開いて右に押し出すかそのまま打って引っ掛けるという「右にも左にも行く」状態となりやすくなります。「自分の体の動き」とパターの「フェース面の開閉」のマッチングを確認すると秋吉のように奇跡を起こすパットが打てるようになるかもしれません。
「いつも通り自然体でいきます。世界で大旋風を巻き起こします!」
初めて挑むメジャーへの意気込みを力強く宣言した秋吉。迷いがなくなったパッティングを武器に世界でも奇跡を起こしてくれるかもしれません。