とにかく低い球を打つ! という構え方・打ち方をしていた
市原弘大選手とは、私がミニツアーやアジアンツアーの予選会などに参加していた頃、試合会場でよく顔を合わせていました。その印象は、つねに丁寧に挨拶をしてくれる礼儀正しいスポーツマン。腰を悪くして長尺パターにしたり、アイアンをカーボンにしたりと、苦労をしながらも努力を重ね、36歳でつかんだ初優勝にはまず心から拍手を送りたいと思います。
常に笑顔で穏やかな市原選手ですが、意外やプレースタイルはアグレッシブ。今季のバーディ率は全体の6位で、今回のツアー選手権でもバーディ以上のスコアで上がった数は「22」で全体の1位タイ。ツアー屈指の難コース、しかもフェードヒッターに有利とされる宍戸ヒルズCCを、持ち球のドローボールで攻め抜いたことが勝利を引き寄せました。
その勝利を決めたのは、言うまでもなく18番のチップインバーディ。この1打を、少し詳しく見てみましょう。最終日最終ホール、ドローがかかり切らなかったのか、市原選手はティショットを右の浅いラフに外します。そこから果敢にピンを狙ったショットは、わずかに飛びすぎて奥へ。ギャラリースタンドに寄り添うように止まったことから、無罰で救済を受けます。2度のドロップでボールは止まらず、結局プレース。ボールのライは、左足上がりです。
左足上がりのライで考えられる打ち方はふたつ。それは傾斜に沿ってクラブを振るやり方と、傾斜を無視してクラブを振るやり方で、市原選手は後者を選択します。その後の構え方、打ち方を見ても、徹底的に「低い球を打つぞ」という意思が見て取れましたが、その理由は後述したいと思います。
左足上がりなので右足に体重がかかりやすいところ、体重は左足にかけ、ボールをやや右目において、ハンドファーストに構え、斜面にヘッドを打ち込むようにしてスウィングしていました。傾斜なりに振ると、ボールはどうしても高く上がってしまいます。しかし、斜面を無視し、ボールに直接コンタクトするように打つことで、ボールにはスピンがかかり、そのこともあってボールを低く出すことができるのです。スローで見るとヘッドが傾斜に当たり、弾き返されていたほど。それくらい、低い球を打つんだ、という意思が感じられました。
ボールを低く出す、イコール、グリーン上でラインに乗せやすいということ。きれいに転がったボールは、ラインに乗り、吸い寄せられるようにカップに消えて行きました。
寄れば100点という状況で、このような結果が出るというのは、やはりどこかに持ち前の攻める姿勢があったのだと思います。チップインという結果は決して偶然ではなく、しっかりとしたショットマネジメントがその背景にはあります。劇的なチップインで優勝をたぐり寄せた市原選手。三度目の出場となる全英オープンでも、臆せず攻め続ける、自分らしいゴルフを見せてもらいたいですね。おめでとう、弘大!
撮影/姉崎正