すべてのアイアンを同じ長さで打つメリット
ザ・メモリアル・トーナメントは松山英樹選手が初日を7アンダーで首位タイスタートし注目を集めたが、2日目以降は伸ばしきれずに13位タイで終えた。元世界ナンバー1のタイガー・ウッズも23位タイと見せ場を見せ、徐々に安定したパフォーマンスを取り戻してきたように思える。注目のチリの19歳新人ホアキン・ニーマンも優勝争いに食い込むなど見どころ満載のトーナメントだった。
その大会を制したのがゴルフの科学者の異名を持つデシャンボーだった。彼のアイアンはすべて6番アイアンをベースに37.5インチの長さに統一されており、クラブヘッドの重さも同じスイングウェイトで振るために278グラムに統一されている。ライ角はスタンダードモデルよりも10度アップライトに設定し、ボールをつかまえやすいようにしている。
右利きにもかかわらず、左手でファンにサインを書き、しかもそれが逆文字だったり、高校の科学の本を図書館から借りて書き写し、本代を節約すると同時に勉強もしてしまったり、サイドサドルパターを使用(のちにルール不適合とされた)したりと非常にユニークなプレーヤーだということが分かるだろう。
科学をベースとしてゴルフを紐解き、あくなき探究心でそれを追求し、形にする彼のスタイルは、感覚ではなく主にデータ、そして科学をベースにスポーツを考える私にとって非常に興味をそそられる。とにかくシンプルに反復できるということを追求するデシャンボーはアイアンのクラブの長さ、重さを統一し、グリップもできるだけ太くし手のひらで握れるようにし、独自のメソッドを徹底している。スウィングも極力シンプルにできるように、コックは少なく、左脚1軸で、アドレス時の手とシャフトの角度も他のプレイヤーに比べ角度がなく、まっすぐに近い。
アマチュア時代も圧倒的な成績を残して注目を集めていただけに、彼のアドレスを見たとき私は少し違和感を覚えた。彼のアドレス時の腕とシャフトの角度がややハンズアップに見えたからだ。データはインパクト時の角度の重要性を顕著に示しているので、デシャンボーがもしアドレスの角度のままインパクトしているのなら161度となりR160(編集部注:インパクト時の腕とクラブの作る角度が160度以内に収まるという、筆者が発見した超一流選手の共通項)から微妙に外れ、彼が今後超ハイレベルのPGA(米男子)ツアーで安定した成績を残すのは難しいという見方になる。
さっそく、彼のドライバースウィングでのインパクトの角度を確認した。ハンドアップなアドレスとは異なり、インパクトではややハンドダウンで158~159度になり、R160を満たしていた。ボール初速も80.4m/sを記録し、メモリアルでは平均飛距離も4位に入るなど、飛距離も申し分ないと言えるので、今後の活躍はかなり期待できる。
彼はアイアンの長さを全部統一し、すべてのアイアンでスウィングを同じにすることにより距離のコントロールし、ロボティックに安定してスウィングを実行することに成功している。データは彼一人しかないので、とることはできないが、この考え方は非常に理にかなっていると言える。アマチュアの方もこの考えは参考になるだろう。
ただ、クラブの長さを全部そろえたり、とくにヘッドの重さを統一するのは難しい。この場合、ゴルフの科学者デシャンボーから応用できるのは長いクラブになるにつれてグリップを徐々に短く握ることだろう。これでクラブの長さは短く感じ、ミート率は上がり安定するのではないだろうか。
長いクラブでなかなかうまく打てない人は、そのクラブを打つときに得意なクラブと同じ長さになるように、グリップダウンして打ってみてはいかがだろうか。あまりにもスイングウェイトが軽くなり、気になるようならヘッドに鉛をはってバランスを調整するのもひとつの手だ。
フルに握ったときの飛距離よりは多少落ちるが、しっかり当たらないのでは意味がなく、短く持つことで自信がつきそのクラブを克服するきっかけになるので是非試していただきたい。