きちんと打てていれば、そんなに飛距離は変わらない。それが今どきクラブ
最近、ゴルフクラブの“進化”がいまいちわかりにくい、といわれている。そもそも“進化”とは何だろうか。多くの場合、“飛距離性能”の向上を指して使われているのだろうと思う。つまり、ゴルフクラブの“進化”がわかりにくいとは、“飛距離”の変化がわかりにくいということになるだろう。
「クラブなんて何に代えたって同じ」、「ドライバーの飛距離競争は頭打ち」。
そうした言葉が5年くらい前から聞かれるようになったが、確かに80年代の木製ヘッドからメタルへの変化、90年代のメタルからチタンへの変化ほどのわかりやすい革新性は、最新と前モデルの間には見出せない。ヘッド素材だけをみれば、カーボンとメタルの組み合わせが再び脚光を浴びてはいるけれど、ドライバーの飛距離性能向上という結果をみれば、やはり最新と前モデルの間には驚くほどの違いはみられない。
これは「残念」というより、もはや、成熟の域に達してきた表れなのだろうと、個人的には思う。これ以上打ち出されるボールのスピードアップを望むなら、ヘッドにエンジンをつける(体は壊れる)とか、ボールに推進機能をつける(ならば打たなくてよい…)などしなければ、劇的な“進化”などのぞめないところまできているのだ。
あくまでも、現在のゴルフクラブをきちんと選び、正しく使えていればの話であるが……。
ゴルファーが決めなくてはいけない大事なスペックが“ロフト角”
しかし、いつからゴルファーはこんなに“飛距離重視”になったのかと、少し不思議に思う。90年代、自分がメーカー取材を始めた頃は、キャロウェイの『ビッグバーサ』シリーズがメタルクラブの時代を大きく変え、ゴルフ界を席巻。当時の開発責任者、リチャード・C・ヘルムステッターは、初代ビッグバーサメタルがゴルファーに与えた影響についてこう話していた。
「ドライバーがみんなの友だちになった。それがビッグバーサメタルの功績です。ヘッドを大きくしたことで、ミスヒットしてもボールが大きく曲がらずに、フェアウェイに飛ぶようになったのです。昔は……アマチュアはドライバー大嫌いだったでしょ? うまく打てない!(笑) それがビッグバーサにしたら、打てる! ってなったのです」
90年代、劇的に“進化”したのはミスに対する許容性。飛距離アップはいわばその副産物だったのだ。2000年以降、とくに日本市場では“飛距離アップ”そのものに焦点が当てられ、 “やさしさ向上”はそのためにあるかのような風潮になっていった。どちらが先でも同じような気もするが、個人的にはクラブを“打てる(使える)”ようにすることと、とにかく遠くへボールを“飛ばそう”とするのでは、生み出されるクラブは違うのではないかと思う。
クラブを“打てる(使える)”ようにするための技術的な進化。今の時代、そんなものが必要なのか? と思うかもしれないが、自分のゴルフバッグの中にも、うまく打つ自信をもてないゴルフクラブがあるはずである。想像するに、3W(スプーン)は今でもうまく打てないクラブの筆頭なのではないかと思う。もはや3Wなんて使わない! と、ロングアイアンと同じようにキャディバッグから抜いてしまっている人も多いかもしれない。
「クラブなんて何に代えたって同じ」
最近は、そういうゴルファーに遭遇すると最新の3Wを打ってもらうことにしている。なぜなら、「なにこれ!すごいいいじゃん!」と、小躍りするような喜びと驚きのリアクションが見られるからだ。今どきの3Wはヘッドの適度な大型化、そしてフェースの薄肉化、ソールの溝機能などによって、ここ数年で劇的にボールスピードが出るようになっている。加えてロフト多め(16度、17度)のモデルを選ぶことで打ち出し角度が最適となり、キャリーを劇的に伸ばすことができる。結果的に、愛用ドライバーよりも飛距離が出てしまうケースも珍しくないのだ。
うまく打てなかったクラブを打てるようにする、それこそがクラブを代える意味であろう。では、うまく打てた、とはどういうことなのだろうか? 個人的には、「ちゃんとボールが上がった」ということなのだと思っている。FWはもちろん、ユーティリティもアイアンも、ドライバーも、ちゃんとボールが上がればこそ、ちゃんと飛ぶ。そして、適正な打ち出しを作ることができれば、きちんと飛距離は出る。それが今どきのクラブだ。“進化”を体感したければ、「ちゃんとボールが上がる」モデルやロフトを選ぶことが肝心であることは、いうまでもないことである。
「クラブなんて何に代えたって同じ」と思っている人ほど、ロフトは何度、シャフト硬度はSRなどとマイスペックを決めてしまっているもの。低くしか打てないならば、おっしゃる通り、おそらく何に代えても飛距離は同じである。逆に、適正な打ち出し角度で打てているならば、その場合もまた、クラブを代えても劇的な“進化”は感じられない。さて、あなたはどちらのタイプだろうか?