国内男子ツアーで賞金ランクトップを走る時松隆光は、7月に入り全英オープン、WGCブリヂストン招待と世界のフィールドで新たな挑戦をしている。今週は全米プロに挑む時松が世界で活躍するカギをゴルフスウィングコンサルタントの吉田洋一郎が分析する。

PGAツアーでも通用する正確性

初出場の全英オープンは7オーバーで予選落ちしたものの、ファイヤーストーンCCで行われたWGCブリヂストン招待で松山英樹と並んで1オーバーで日本人トップタイの成績を収めた時松隆光。JGTOで平均飛距離275ヤードの時松は欧米のトップ選手にティショットで置いていかれる場面は多々あったものの、飛距離のハンディキャップを正確なショットでリカバリーする場面がみられました。

画像: 全英では予選落ちしたものの、WGCブリヂストン招待では松山と並び1オーバーと健闘した時松隆光(写真は2018年の全英オープン 撮影/姉崎正)

全英では予選落ちしたものの、WGCブリヂストン招待では松山と並び1オーバーと健闘した時松隆光(写真は2018年の全英オープン 撮影/姉崎正)

PGAツアーでは飛距離が求められるコースセッティングが多々ありますが、正確性を重視する状況も多く、そのような試合にハマれば十分に勝機はあると思います。

WGCブリヂストン招待が開催されたファイヤーストーンCCは7400ヤード、パー70としっかりと距離がありますが、昨年現地で取材した時に感じたのは距離に加えピンポイントで狙えるショットの正確性が要求されることです。

モンスターと呼ばれる16番ホール667ヤードパー5は、飛ばし屋でもグリーン周りに池が絡み2オンすることはなかなか難しいため、3打目をいかにいい場所で打てるかがカギになります。そのため、ティショットは飛距離よりも10ヤード幅の右サイドの傾斜に正確なショットを打つことが必要になります。このような状況ではロングヒッターよりも正確性が武器の時松の長所が活きてきます。

今後、海外ツアーの経験を増やし日本と異質の芝への対応方法を学ぶことで、成績を伸ばしていく可能性があります。

時松とジョンソンの共通点

飛距離という武器を持たない時松ですが、PGAツアーには飛距離のハンディを克服する選手がいます。その中の一人、マスターズ、全英オープンを制したザック・ジョンソンは175センチ、73キロでドライバーの平均飛距離は280~285ヤードとPGAツアー150位前後の飛ばない選手として知られています。しかし、正確なショットと勝負強いパッティングで42歳にして一線級の選手として活躍しています。

画像: マスターズや全英オープンでの優勝経験のあるザック・ジョンソンと時松には共通点ある(写真は2018年の全英オープン 撮影/姉崎正)

マスターズや全英オープンでの優勝経験のあるザック・ジョンソンと時松には共通点ある(写真は2018年の全英オープン 撮影/姉崎正)

時松とザック・ジョンソンには「グリップ」と「コーチ」という2つの共通点があります。

時松は右手を下から当てる「テンフィンガーグリップ」のフックグリップでフェースローテーション(フェースの開閉)を抑えた独特のスウィングをしています。ザック・ジョンソンも時松に比べフラットなスウィング軌道となるものの、同様に極端なフックグリップでクラブを握りフェースローテーションを行いません。

画像: 時松のテンフィンガーグリップ(左)とザック・ジョンソンのフックグリップ(右)

時松のテンフィンガーグリップ(左)とザック・ジョンソンのフックグリップ(右)

私は時松を指導する篠塚武久さんに「桜美式」のテンフィンガーグリップ理論、ザック・ジョンソンを指導するマイク・ベンダーにゴルフィングマシンをベースにしたスウィングを学びましたが、両者ともフェース面を変えずに振れるため方向性に優れており、プレッシャーのかかった場面でも崩れにくいと感じました。

しかし、両者ともに外野からその極端なフックグリップに対してアゲンストの風を受けてきました。しかし、ジュニア時代からいくらグリップを変えるように指摘を受けても、時松は信念をもって篠塚さんの桜美式スイングを貫いてきました。ザック・ジョンソンもマイク・ベンダーという優秀なコーチに師事し、15年近く同じコーチに同じ理論の指導を受けています。

キャリアや生活のかかるプロゴルファーだからこそ、成績が上下する中でコーチを変えずにスウィング理論を信じ切るというのは並大抵のことではありません。

世界の舞台で飛距離不足を痛感したことでスウィング改造を行う選手がいますが、ザック・ジョンソンのように「スウィングを変えない勇気」を持ち続けられれば、時松が世界の舞台で活躍する日は近いかもしれません。今週開幕する全米プロゴルフ選手権でも、自分のプレースタイルを貫いてほしいと思います。

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