ホーガン、ニクラス、ウッズ。名手中の名手に愛される、ヒールの角(カド)
昨今、様々なニュースサイトでタイガー・ウッズ使用クラブの写真を目にするが、個人的にはウッズのプロトタイプアイアンを見ると、なんだか嬉しくなってしまう。注目はヒールの角(カド)。そう聞いて「あぁ、あそこね」とアイアンの部位を想像できるゴルファーはほとんどいないだろう。なぜなら一般的なゴルフクラブ用語に“ヒールの角(カド)”なる言葉はないからである。
“ヒールの角(カド)”とは、ソール面とホーゼルの境界にできる出っ張りのこと。あまり注目されないが、ここが今のアイアンと昔のアイアンではまるで違うのである。昔はソールのヒールは角張っていたが、今のアイアンは総じて角が落とされ、丸みを帯びている。現在、ヒールに角があるアイアンを使い続けているのは、ウッズくらいのものだといえるだろう。
さて、このアイアンのヒールの角だが、この点に関して以前、ナイキゴルフでウッズのアイアンを研磨していたベテランクラフトマン、マイク・テーラー氏に質問したことがある。“ウッズのアイアンをみていると、ジャック・ニクラスのアイアンを思い出します。とくにヒールを落としていないところ。そこがポイントなのではないですか?”と。すると、テーラー氏はこう応じた。
「よく気がついたね、確かにこのソールとホーゼルのつながりを好んだのは、ニクラス、そしてタイガーだ。少し形状は違うがベン・ホーガンもこのヒール部分にすごくこだわりを持っていた。ヘッドが地面とコンタクトするときに、このヒールの出っ張りが重要な役割を果たす。詳しくはいえないけど」(2012年のインタビュー)。
ナイキ契約時代のウッズは、アイアンについて「地中でどうヘッドが動けばよいか、そのためにはソールをどうすべきか」と、始終開発スタッフと話していたという。その一つの表れがヒールの角張りなのだと思う。
ヒールが出っ張っていれば、インパクトではそれが“抵抗”となるはずである。“抵抗”といっても、ヘッドの勢いを殺すようなネガティブなものではなく、地面への潜り込みを防いだり、フェースの進む方向をガイドするような機能。役割的には、ソールに付けられたバウンス角と同じようなものかもしれない。マッスルバックアイアンはたいていソールが狭く、ワイドソールよりもバウンスが効きにくいといえるから、それを補完する機能が必要だとも考えられる。
すべては推察の域を出ないが、ウッズ、ニクラス、ホーガン、プロゴルフ史に燦然と輝く名プレーヤーの全盛期を支えたアイアンには、共通してヒールの角、出っ張りがあった。それは事実。そして、ウッズは契約メーカーを変えてもなお、そこに変わらぬこだわりをみせ、パーソナルアイアンを作らせている。道具好きにとっては、それが嬉しくてたまらないのだ。ウッズのアイアンが放つ、懐かしい“プロモデル”の光。 彼に“ヒールの角”にこだわる感性がある限り、完全復活近し! と大いに期待したくなるのである。