全国に約780ある大学の中で体育の授業に「ゴルフ」を取り入れている大学は約580も存在していることをご存知だろうか。大学の体育の授業で初めてクラブを握ったという学生は相当数おり、ゴルフ人口減少の歯止めになる可能性を秘めている。ただ、問題はゴルフの道具の特殊性からくる“難しさ”。そこで、通常のクラブに比べて打ちやすいセンターシャフトのアイアンを作ったら、ビギナーの学生でもゴルフをより簡単に楽しめるのではないか? このアイデアを出したプロゴルファー・中村修が、産学協同で作ったプロトタイプの“反応”をレポート。
プロゴルファーの願い。学生たちに、社会人になってもゴルフを続けてほしい!
大学の体育の授業でゴルフを経験する学生は少なく見積もっても年間数万人は存在しています。授業を提供する大学側は少しでもゴルフの楽しさを味わってもらおうと、用具の整備やゴルフ場の協力を得るなどし、実際のコースでのラウンド実習を行っているといった例も珍しくありません。
毎年、それだけの数の潜在的ゴルファーが生まれているんです。彼らが卒業後、社会人になってからもゴルフを続けてくれたら……私(中村)自身も、かつて千葉県のショートコース付帯の練習場で幾つかの大学ゴルフ授業をサポートした経験があり、そう強く思っていました。
問題は、ゴルフクラブの難しさです。ゴルフクラブは、野球のバットやテニスのラケットのように持ち手と打球面が一直線上にありません。そのことでクラブをコントロールするのは他競技に比べて難しく、上達に時間を要するのです。
そこで、雑誌の企画を通じて知り合った「大学ゴルフ授業研究会」代表を務める武蔵野美術大学の北徹朗准教授と意見を出し合い、「持ち手の延長線上に打球面があるセンターシャフトのアイアンがあったら誰でも簡単にボールが打てるはず!(ただし、ルールには不適合)」と試作したアイアンを、大手メーカーであるブリヂストンに提案しました。
趣旨に賛同してくれたブリヂストンと我々の間で意見を出し合い、試作品としてできあがった最初のクラブが写真1。シャフトの延長線上に打球面がくるようにネック形状を工夫しています。
実際に授業で学生に打ってもらったところ、「打球が速くなった気がする」「音が鋭くなった」「打ちやすい」などのコメントや「フェース面が広く見える」「安定感がある」とのコメントも寄せられた反面、「打ちにくい」「アドレスの時にボールが見えにくい」などのコメントもありました。
これら学生へのヒアリングとテストを経てソール形状やフェース面、ネック形状を改良した結果、ウッド形状に近いアイアンクラブに発展した試作クラブ2号が写真2。
フェース面が大きく前にせり出した独特な形状ですが、シャフトの延長線上で打てるようにネック位置は工夫されています。
その結果、学生たちからは「スウィングしやすく、ボールも見やすい」「ダフリなどのミスもカバーできる」という好意的な意見が増えました。実際に、学生を対象とした試作クラブのテストにおいても、ストレートボールの確率に上昇傾向が見られたと言います。
センターシャフトアイアンのルーツを英国ゴルフ博物館で発見
私は、今年の全英オープンの取材の合間に、セントアンドリュース・オールドコースに隣接する英国ゴルフ博物館でセンターシャフトの様々なクラブを発見しました。
「1920年まではルールで禁止されていなかったので様々なセンターシャフトのクラブが使われていました。しかし、センターシャフトのクラブはやさしすぎるため、技術を競い合うことを目的としたゴルフのルールにのっとり禁止になりました」(学芸員)
話を聞かせてくれた学芸員に、世界的にゴルフ人口が減少しているなか、センターシャフトのアイアンが解禁されたらゴルフを楽しむ人口が増えるのではないか? とも聞いてみたところ、「その意見には賛成だよ」と言ってくれました。
ゴルフのルールではパター以外のクラブでセンターシャフトは禁止されています。しかしセンターシャフトのアイアンには、誰でも簡単にボールが打てて、緑のじゅうたんの上で白球が空に舞いグリーンに落ちる楽しさを体験できる可能性を秘めています。
ウェッジと8番アイアン程度のロフトのセンターシャフトアイアンが2本、それにパターを合わせた3本あればショートコースで誰でも楽しくプレーできるはず。ルールに違反しているので、もしかしたらそれはゴルフとは呼べないかもしれません。でも、ゴルフが持つ自然の中で遊ぶ楽しさを味わってもらうことで本来のゴルフに興味を持ってもらったり、上達を早めることができるのではないかと考えています。それに、センターシャフトアイアンでゴルフを始めたゴルファーも、上達していく過程で、自然にルール適合のクラブを持つようになるはずです。
ゴルフ人口の減少の原因は様々ありますが、初心者には、まずゴルフの楽しさを知ってもらうことこそ続けてもらえる理由になるのではないでしょうか。大学のゴルフ授業と連携してゴルフ界を盛り上げられたら、と願っています。