パターは下手だと思い込んでいた
1992年生まれの東浩子は現在賞金約2715万円を稼ぎ、ランク34位。曲がらないショットを武器に安定感のある戦いぶりを見せている。そんな東は香妻とプロ入り年は違えど学年が同じ仲良し。なかなか調子が上がらない香妻に、東は二人の人物を紹介する。
それが、パッティングコーチを務めるプロゴルファー・大本研太郎とパフォーマンスコーチの佐々木信也。この二人にアドバイスをもらうようになって、香妻はパッティングが復調。見事初優勝につなげている。
東自身はといえば、二人のコーチングを受けて、平均パット数が「0.04打」よくなったという。
たった0.04打!? と一瞬思ってしまうが、東の今年の昨年のパッティングの成績を比較すると、昨年の平均パット数が1.8686で74位のところ今季は1.8453で54位(10月3日現在)と向上。約0.02ポイント良くなっただけでランクが20位も上昇するので、「0.04」はツアープロにとって決して小さい数字ではない。
「それまではボールを撫でるように打って外れていたのが、しっかりとヒットできるようになりました。外したとしても納得できる外し方をするようになったので、次のホールに引きずらなくなったことが大きいですね」(専属キャディの先崎洋之)
東本人は、数字以上に「自分はパターは下手だと思い込んでいた私が、自信を持てるようになったことが一番大きい」と言う。
「二人のお陰で自分を取り戻すことができました。自分本来の打ち方を思い出させてくれたんです。パットが入らなくなってきて、考えるようになって。この世界って自分が一番だと思うことが一番大事じゃないですか。自信のない人は勝てないし成績も残せない世界だから、どんどん自分の首を締めてしまっていたんです」(東浩子)
それが、二人のコーチによってパットが改善。そこで、不調に喘いでいた香妻を紹介したという流れのようだ。
それにしても、大本と佐々木は東と香妻に一体どんな魔法をかけたのだろうか? 東に続けて聞いてみた。
「(パッティングストロークに関して)細かく数値をとってみたら、そんなに悪くなかった。でも自分で悪いと思い込んでしまっていたんです。香妻もたぶん同じだったんだと思います。もともと彼女もパットの技術が劣っていたわけじゃない。(自信をなくしていたのを)二人がうまく自信を持てる方向に導いてくれたんだと思います」(東)
つまり、「良くした」というよりも、「悪いという思い込みをなくした」「自信を取り戻させた」ということのようだ。それにしても、言うはやすし行うは難し。具体的にどうやって思い込みを取り去ったのか、次は大本研太郎本人に聞いてみよう。
「プロでも入らなくなってくると、情報が過多になり左脳が邪魔をして動きを妨げるんです。“右脳モード”でパッティングをすることを念頭に、姿勢やバランス、ルーティンを少しずつ調整してきました。たとえ外れたとしても、いいパッティングができていれば引きずらないで次のホールに向かえます。僕の仕事はそこだと思っています」(大本)
もう一人のコーチ佐々木は先崎キャディとの連携が結果につながったと話す。
「人間の運動はイメージで作られるので、それが消えるとパフォーマンスは絶対に出ないんです。昨オフに合宿をして先崎キャディと一緒に脳波を計測するフォーカスバンドという器具を使い、脳の状態を確認しながらイメージ力を高めてきました。もともとある実力をすっと出すためにノイズを取り払うルーティンと心の習慣は、一番近くにいる先崎キャディの存在がなければ作れなかったものです」(佐々木)
二人のアドバイスと先崎キャディのサポートを活かし活躍につなげた東は、「レギュラーツアーで戦っている人たちの調子の良し悪しは紙一重。ほんの少しのことで優勝まで手が届く」という。
必要なのはちょっとしたきっかけだが、結果がすべてのプロの世界においては、そのきっかけを探して迷路に迷い込むのもよくある話。一人で考えすぎず周囲の力を借りることも、結果を出すための秘訣なのかもしれない。
今日から始まる女子ツアー「スタンレーレディス」での、東、香妻のグリーン上でのパフォーマンスに注目したい。その先に、東は初優勝、香妻は2勝目が待っているはずだ。