「医者がなぜゴルフの研究を?」という疑問が頭をよぎるが、清永はゴルフ全般を自然科学・数理科学の対象としてとらえている。解剖学、運動生理学、物理学、数学、幾何学、身体運動科学などの見地から技術習得のためのデータを収集・分析し、「無意識動作を意識化する」取り組みを行っているという。
そもそも清永教授がゴルフと出会ったのは大学生の頃。心臓病を患いリハビリのためにゴルフを始めたところ、驚くことに2年半後には九州学生選手権を制覇、その後3連覇を達成した。ゴルフの虜になった清永教授はパッティングの研究を1996年1月から開始し、先人たちの文献や考え方の疑問点、矛盾点、未解決な問題点を探求し研究方法を確立させている。
そんな清永教授が教えてくれた、勘違いしがちな「パッティングの真実」を紹介しよう。
パッティングのストロークに「真っすぐ」はナンセンス
「真っすぐ引いて真っすぐ出す。ゴルファーを惑わす最悪の言葉だと思っています。パターにもライ角があるので、パッティングのストロークは『傾斜付き振り子運動』だと規定します。そうすると、ヘッド軌道はフラフープを地面に斜めに立てた状態と同じ円軌道、すなわちインサイドインであり、(縦方向の)入射角と出射角もあります。真っすぐに動かそうとしてフォローでカップ方向にヘッドを出すのは腕の筋肉の使い方から見てもナンセンスなのです」(清永)
正確な方向どりが求められるパッティングにおいてはフォローでヘッドをカップに向けて出せと聞いたことがある人も多いはず。ところがパッティングのストロークはショットと同じ円運動、ヘッドの軌道もインサイドインと考えるのが自然。無理に真っすぐに動かす必要はない。
「痛みは警報」痛みを感じたらやり方を見直せ
また、パットの練習というと腰が痛い、首が痛いとこぼす人は少なくないが、それはそもそもの姿勢が間違っているという。
「パッティング練習中に腰が痛くなる、背中が痛い、首が痛い。このような痛みはパフォーマンスを10%落とします。良肢位といって、骨関節じん帯筋肉に無理のない姿勢を保持することが重要です。痛みを感じるならその姿勢、やり方は間違っていると考えてください」(清永)
そして、体に無理のないパッティングの姿勢の条件はパターの“シャフトの長さ”にあると清永は説く。お手軽に適切なシャフトの長さを知れるのが、アイアンを用いた調べ方。アイアンは通常SWから0.5インチ刻みに長くなっているので、一本ずつ持ってパッティングストロークを繰り返し、一番気持ちよく振れた長さ=適切なパターのシャフトの長さというわけだ。無理な姿勢から解放されることでイップス対策にも効果的だという。
パターというと33〜35インチくらいが標準的だが、それにとらわれず、構えやすく痛みの出ない長さがもっとも“良い長さ”ということになりそうだ。
パットは距離感が第一、方向性は二の次でいい
さて、実際の狙い方について、清永教授はこう言う。
「まずはボールをカップまで届かせることが大切であり、狙う方向は二の次とします。二兎を追うものは一兎も得ずです」(清永)
「ゴルフデータ革命」を基に詳細をさらに分析すると、PGA(米男子)ツアーの選手が3メートルの距離のパットをするときにショートする確率はわずか6%、17回に1回しかない。対してスコアが90のアマチュアゴルファーの場合は16%、6回に1回はショートしているという。
同ツアーの選手であっても距離が長くなるにつれてショートする確率は高まり、6メートルの距離では26%、4回に1回になるんだとか。ここにアマチュアとトッププロとの技術の差があると清永教授。アマチュアも距離感を合わせることを第一に考えることで技術を向上させることができ、イップス対策にもなるという。
最後に、ショートパットにおいてカップインさせる必要条件は3つ。ひとつ目はインパクトのときのフェースの向きがターゲットに対してスクェアであること。ふたつ目はスウィートエリアとボールの中心が一致すること。三つ目はターゲットに対してヘッドが均等なインサイドイン軌道を描くことだという。
清永教授の技術習得論は「技術は習うのではなく自学自修」だという。アドバイスを受けたことに対して自分で試してみて練習を繰り返して会得すること、それこそが技術を向上させる唯一の道であると説く。
凄腕大学教授の研究成果、試してみては?