2019年初戦セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズは、最終日を迎えて首位に立っていたゲーリー・ウッドランドと5打差の4位で発進したザンダー・シャウフェレが、コースレコードタイの62(11アンダー)でホールアウト。23アンダーで逆転優勝を果たした。これで今季は昨年10月、上海で行われた世界の優勝者たちが集まるビッグイベント、WGC・HSBCチャンピオンズに続き、自身2戦連続優勝。米ツアー通算4勝目を再びチャンピオンのみが出場できるエリート集団による大会で勝利したのだった。
「言葉が出ないよ。本当にクレージーな1日だった。今まででプレーしてきて最高の最終ラウンドだったよ」
ザンダーの快進撃は、1番ホールのボギーでスイッチが入ったと言っていい。
「1番でボギーを叩き、ふと我にかえると何も失うものはないな、と気づいた。ボクの優勝は全て逆転優勝だしね」
その後は8バーディ2イーグルと絶好調。パー5でイーグル奪取も可能な最終18ホールをゲーリー・ウッドランドと首位タイで臨んだが、2打目、「左手が震えていた」と言うザンダーは何度もグリップし直し、5番ウッドで276ヤードの会心のショット。見事グリーンを捉え、イーグル逃しのバーディでウッドランドを1打差に抑え、優勝を果たしたのだった。
25歳の彼が世界の大舞台に姿を表すようになったのは、2017年にエリンヒルズで行われた全米オープン。彼はその週5位タイに入り、名前を広く知られるようになったが(アメリカ人ですら彼の名前の呼び方には苦戦しているが、彼の名前はシャウフェレが正しい)、そのたった1カ月後のザ・グリーンブライヤークラシックで米ツアー初優勝を遂げ、同年のフェデックスカップ・プレーオフ最終戦のツアー選手権で2勝目。ルーキーイヤーながらフェデックスカップで3位に入る大活躍を果たした。
さて、どの優勝にも言えるのは彼には温かく見守る家族の存在があるということだ。父でありコーチのステファン、台湾人で日本育ちの母・ピンイー、そして日本にも仕事で滞在経験を持つ兄のニコがザンダーのプレーを見守り、居心地のいい環境が自然とできていることも大きい要素だと思う。彼の家族はとても仲が良く、みな個性的でフレンドリーな人たち。私などつい数年前に知り合ったばかりなのに、時折ツアーに取材に来ると昔からの友人のように扱ってくれるようなお人柄だ。だからザンダー自身もそんな家族の中で生まれ育ったおかげでスーパーナイスガイである。
世界のビッグトーナメントに勝とうが、今後もこの穏やかで優しい性格は変わらないだろう。だが、彼は意外にも他人にはわからない熱い闘志を秘めているという。よく「(性格の)いい人は勝てない」というゴルフ界の法則(!?)があるが、彼は性格がいいだけでなく、ガッツもある。それはドイツ人とフランス人のハーフである父と、台湾生まれの日本育ちで米国留学も経験している母のもと、様々な環境で育ってきた彼が、どんな場所でもうまく対処できる応用力を身につけたと同時に、どんな人種の人間にも負けず1番になりたいという強い気持ちが過去の人生で育まれたからではないか。
ちなみに彼はハワイ・カウアイ島で育った時期もある。開催地カパルア・プランテーションコースの支配人を務めるアレックス・ナカジマ氏は、カウアイ島のプリンスビルで父ステファンと一緒に働いていたこともあり、シャウフェレ家とは旧知の仲。ザンダーは優勝後に
「(アレックスが)ハグしておめでとうと言ってくれた。この島(マウイ)に来ると家族のようにいつも扱ってくれるんだ」
と語っていたが、ハワイの“家族”の存在もザンダーにとっては居心地が良かったのかもしれない。試合だからといって意気込みすぎることもなく、穏やかに自然体で臨むザンダー。勝っても負けてもいつも通りに温かく迎えてくれる家族がいるからこそ、彼ものびのびとプレーができるのだ。
今大会でも緊張する場面は何度かあったようだが、昨年の全英オープンで優勝争いに加わり、2位に甘んじた経験も今回大いに役に立ったという。
「(全英オープンでの経験は)緊張の場面でも自分をコントロールするといういい経験を積むことができた。ボクもブルックス(・ケプカ)のようにメジャーでいいスコアを叩き出して、優勝争いに加わりたい」
今季はすでに4カ月で2勝を挙げ、目下フェデックスカップランキング1位。世界ランクも6位まで浮上した。今年、彼の視線の先はずばりメジャー。昨年の全英オープンで体験した苦い経験を糧にメジャーでの初勝利を期待したい。