地面にある重いものを両手で持ち上げてみる
私がゴルフを始めたころは、構えたときの姿勢については、あまりうるさい説明はなかった。せいぜい「前傾姿勢をとって、両ひざを曲げる」くらいの表現で終わっていたように思う。
だから昔はプロや上手なアマチュアにしても、バランスのよいアドレスこそとっていたものの、背中が丸くなりがちで、今のプロのような構えの力強さは見られなかった。
当時の私のアドレスもまったくの自己流で、ただスタンスをとって、ボールに対して構えただけというに等しいものだった。
小松原プロは、そんな私の構えを見て「寅さん(中村寅吉プロ)の構えを見てごらんなさい。でかいお尻が目立って、出っ尻になっているでしょう。ああでなければ、ボールは飛びませんよ」と、普通のままの姿勢ではなく、出っ尻にするようにとアドバイスしてくれた。
私はいつもの習慣で右足を前に出し、フェースを飛球線に直角に置き、次に左足、右足の順に開いて構えに入っていたが、いわれたとおり最後にお尻を後ろへ突き出すようにアドレスをした。
確かに、こうして出っ尻の姿勢をとると、下半身がどっしりとして、スウィング中もクラブをバランスよく振ることができた。
ただ、女性には「出っ尻」という言葉は禁句だったようである。小松原プロの言葉を借りれば「女性はお尻を大きく見せたがらないので、この言葉は受け入れてもらえなかった」ということであった。
代わりに、小松原プロは「地面にある重いものを両手で持ち上げるときの腰の構え」と説明していたそうだ。重いものを持ち上げるときには、誰しも自然と一番、力が出る体勢をとろうとして出っ尻になるので、それを利用したということであるが、このたとえは男性にとっても、大変わかりやすいものだったと思う。小松原プロならではの生活に根ざした表現力の勝利である。
そして、同時に、小松原プロの生徒には女性が多く「小松原女学園」などといわれていたものだが、こうした言葉を選ぶ繊細な心遣いが、多くの女性のお弟子さんを集める結果になったのであろう。
「ゴルフ、“死ぬまで”上達するヒント」(ゴルフダイジェスト新書)より