フェース面を削り出したミルドパターやソールをミルドしたウェッジなど、一部分だけをミーリングしたクラブは大手メーカーからも発売されているが、すべてを一つの素材から削り出す、いわゆる「フルミルド」はなかなかない。
なかでも番手間のバランスを取る必要があるアイアンは、フルミルドの場合パターやウェッジと比べて設計難易度が非常に高く、今まで誰も手をつけていなかった。……のだが、昨年12月、フルミルドアイアン「MUQU」が登場した。
制作したのは自動車部品の金型メーカー、エムエス製作所。長年築き上げた金属加工技術によって0.01mm単位の精度で作られた新次元のアイアン。値段は1本36万円、5番からPWまでの6本セットで揃えた場合総額216万円と非常に高価だが、それだけのこだわりが込められている。
「普通フェースミーリングをすると削った跡が出るものなんですが、それが非常に細かい。削り跡までデザインされているような美しさですね。もちろんフェースの溝の深さや長さ、間隔の精度も非常に高いです。ネック部分に掘られたスプリング状の意匠も美しくて、まるで高級グラスのような感じです」(中村)
フルミルドもさることながら、素材となる鉄を「S25C」、「S50C」、「SUS303」の3種類から選ぶことができるのもMUQUアイアンの非常に特徴的な点。そこで今回は素材の異なる3種の7番アイアンを同じ試打用シャフトを用いて比較試打した。
まずはS25Cという炭素鋼から作られたアイアンから試打。「構えた時の見た目はすごくオーソドックスです」と試打者の堀口が言う通り、奇をてらっていない、いたってシンプルな形状で「これぞアイアン」といった印象だ。
36万円のクラブということもあって「少し打つのが怖い(笑)」と言いながら一振り。打った瞬間、その真価に気づいた堀口は思わず叫んだ。
「柔らかっ! めっちゃ(ボールが)吸い付きます!」(堀口)
ヘッドスピード37m/sに対し、総飛距離177ヤードと飛距離性能も高水準。弾道を見ると、ボールはまったく曲がらずに真っすぐ飛んでいっていることがわかる(写真A参照)。
続けて中村も試打。堀口と同様ボールが曲がる気配はまったくなく、ヘッドスピード33.6m/sで総飛距離159ヤード。
「あまりにも真っすぐ行き過ぎてビックリしました。打感がとても柔らかいのと、ビシッという、ボールがフェース面にくっついているような打音が特徴的ですね」(中村)
続いてS50Cを試打。S25Cよりも0.25%炭素含有量が多く、その分鉄の硬度は上がっているが、実際に打つとどうだろうか。
堀口が打つと、37.6m/sで総飛距離177ヤード。飛ばし性能はS25Cと同様の結果だが、堀口によるとインパクトの感触が少し異なるという。
「少し音が違いますね。柔らかいんですけど(S25Cよりも)少しシャープな感じ。S25Cと同様、全然曲がりませんね。欲しいなこのアイアン(笑)」(堀口)
最後はSUS303(ステンレス鋼)。よく削り出しパターで使われる素材だが、アイアンの場合はどのような仕上がりになるのだろうか。
SUS303を一振りし、ヘッドスピード38m/sで総飛距離173ヤード飛ばした堀口。他の2本と同様の結果だが、やはり感触は異なるようだ。
「また少し違っていて、当たった感触に少し重みがありますね。3種類とも形状や構えた感じが一緒で、打感が柔らかくてまったく曲がらない点も同じなんですが、手への打感の伝わり方が少し違います。3本ともそうなんですが、素材だけでこれだけの柔らかさを実現するってなかなかないですよ」(堀口)
特別な飛ばしのギミックを採用することなく、オーソドックスな形状をフルミルドで作り上げることでこれだけの直進性と飛距離性能を生み出したMUQUアイアン。試打した中村は、その高額な値段に見合った価値があるという。
「やはり一本一本が丁寧に作られているのはもちろん、実際に打ってみると見た目の美しさだけでなく、一本36万円という価格に見合ったアイアンとしての機能がしっかり備わっていることがわかります。日本のモノ作りの匠がアイアンを作るとこうなるんだっていう仕上がりですね」(中村)
1本36万円は伊達ではない、ようだ。
協力/PGST