昨シーズン劇的な復活優勝を遂げたタイガー・ウッズ。約3年間タイガー・ウッズのコーチを務め復活優勝の土台を作ったクリス・コモを詳しく知る人は少ないだろう。クリス・コモと親交のあるゴルフスウィングコンサルタントの吉田洋一郎がコモに話を聞いた。

あらゆるコーチの理論を学んだ

コモは1977年生まれの41歳。ロサンゼルスのバーバンクで生まれ育った。16歳の頃から、ゴルフスウィングのメカニズムに強い興味を持ち、地元カリフォルニアの有名なコーチたちに師事。大学で心理学と認知科学を専攻し、弱冠20歳でティーチングの道に進んでいる。

「昔からティーチングに情熱を持っていて、多くの指導者を訪ねて回った」と本人が語るとおり、レッドベターやハンク・ヘイニー、マイク・アダムス、マック・オグレディなど、名だたるコーチのもとを訪ねては、その教えを吸収。さらにあらゆる本にも目を通し、ゴルフスウィングをとことん探究していった。そうしたなかでコモは「コーチによってさまざまな異なる意見が書かれていることに疑問を持ち、それを追求したいと思うようになった」と言う。

バイオメカニクスとの出会い

そしてその情熱が、コモをある人物と結びつけるテキサス女子大学でバイオメカニクス(生体力学)を研究するヤン・フー・クォン教授だ。「バイオメカニクスの観点からゴルフスウィングを研究するにあたり、ゴルフに詳しい専門家の助けが必要だった。そんなとき、博士課程の学生から紹介されたのがコモだった」とクォン教授は言う。2007年のことだった。

「彼は当時まだ30歳ぐらいで若かったが、すでに何人かの有名なコーチのもとで経験を積んでいた。非常に問題意識が高い男で、常に現状の理論に疑問を持っていた。もっと効果的で、かつ体にやさしいスウィングがあるのではないのか、と。彼はすぐにバイオメカニクスの修士号を取得することを決め、私も生徒として彼を受け入れることにしたんだ」(クォン)

画像: バイオメカニクス(生体力学)の研究をするヤン・フー・クォン教授(撮影/野村知也)

バイオメカニクス(生体力学)の研究をするヤン・フー・クォン教授(撮影/野村知也)

バイオメカニクスとは、体の動きを力学的な視点から分析し、より効率的で、かつケガをしにくいパフォーマンスを追求する学問。「反力打法」に代表されるように、自分の筋力だけでなく、重力や地面反力といった「外力」を上手く利用することで、より高いパフォーマンスを、よりラクに発揮できるようになる。理論というよりは、もっと根底にある、ベースとなる知識。空気などと同じで、それを抜きには語れない運動の根本原理といえる。

コーチによって言うことがバラバラ――コモの長年のモヤモヤが、バイオメカニクスという1本の串を通すことで、一気に解消された。

「クォン教授に出会い、多くの研究を重ねていくことによって、ゴルフスウィングの根本原理を理解・判断するうえでの優れたレンズを手に入れることができた。それぞれの選手が抱える悩みや問題点に対して、どうアプローチしてどう解決すべきかを判断するうえで、とても役に立っている」とコモは語っている。

2014年末タイガーのコーチに抜擢

そんなコモが「タイガー・ウッズとコンタクトを取ることになったのは自然な流れ」と前述のクォン教授は言う。「彼は当時すでにインストラクターとして高い評価を得ていたが、我々との研究活動によって、ゴルフレッスンとバイオメカニクスを結びつけることのできる唯一無二の存在となった」(クォン)。

3度目の腰の手術を受けた直後で、満身創痍だった2014年のタイガー。復活のためには、体に負担の少ない、より自然なスウィングを身につける必要があった。そんな折に、親友のノタ・ビゲイから「面白いやつがいる」と紹介を受けたのが、コモだったという。

画像: タイガーのコーチとして抜擢されたクリス・コモの今後の活躍に注目だ

タイガーのコーチとして抜擢されたクリス・コモの今後の活躍に注目だ

「タイガーのチームがコモと最初にミーティングしたとき、彼らはタイガーの抱える問題に対するコモの知識と理解の深さに感銘を受けたそうだ」とクォン教授が語るとおり、その後すぐにコモはタイガーのコーチに抜擢されることになった。

タイガーはあれだけの成功者で、当然「我」が強い。それをどう上手くコントロールするかが、コーチには求められる。ブッチ・ハーモンにしろ、ショーン・フォーリーにしろ、歴代のコーチはみな、対人スキルが高く、口が上手いタイプだった。

一方のコモは、話の上手さというよりは「聞く力」が優れている。相手が望んでいることを上手に汲み取ることができ、聞いたことに対し、適切な答えを導き出せる引き出しも持っている。若い頃からあらゆる理論を学んできたこと、それらの根底にあるバイオメカニクスを理解していることが、そうしたコーチングスタイルを可能にしているのだろう。

タイガーも、いろんな理論に取り組んできたなかで、なんらかの「型」にはめるのは自分には合わないと気づいたのではないかと思う。

当のコモも、自身の指導方法について「ゴルファーのレベルに関わらず、改善点はゴルファー自身が見つけ出していくべきものだと考えている」と言う。「私の指導では、特定のメソッドを利用することはしない。クライアントの悩みや目標をしっかりと聞き、それに自分の知識を照らし合わせながら、それぞれに合った指導方法を構築していく」のがコモ流だ。

要は、相手のニーズに応じて「テーラーメイド」(注文仕立て)する、押し付けないティーチング。ショーン・フォーリーのように型にはめようとする教え方は、ハマればいいが、合わないと全然ダメになってしまう。タイガーの場合は、どんな打ち方でも合わせることができてしまい、それで勝ててしまうから凄いが、その弊害が故障という形で表れてしまった。そういう意味でも、コモのコーチングスタイルがしっくり来たのではないかと思う。

昨年末にタイガーはコモとの契約を解消したが、これは決してコモがコーチとして不満だったからではない。おそらく、ゴルフスウィングの原理原則をコモからすべて学び取ったことで、もう大丈夫と感じたのだろう。いわば3年間、大学で講義を受けて卒業した、という感じ。原理原則を理解したから、あとは自分で微調整することができる、と。その証拠にコモと別れたあとは、いまだ専属コーチを付けていない。

コーチを付けない中で、今シーズンのタイガーがどのようなスウィングをするのか注目したい。

あらゆるテクノロジーを学び、常にティーチングスキルを高めているクリス・コモ。コモの今後のティーチング活動に目が離せない。

詳しくは今週発売の週刊ゴルフダイジェストのご一読を。

HONMA

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