ウェストマネジメント フェニックスオープンを制したリッキー・ファウラーは、ホールアウト後「もうこんな勝ち方はゴメンだね。」とコメントしている。最終日にスコアを落としながらも勝利をつかんだファウラーの課題、そしてその素顔を、海外での取材経験が豊富な元ゴルフ雑誌編集長が語る。

最終日にダボ、トリを叩いて勝利したのは1983年以来初めて

ウェイストマネージメント・フェニックスオープンで、リッキー・ファウラーが2017年ホンダクラシック以来、約2年ぶりの勝利を挙げた。10年にはハンター・メイハンに1打差で破れ、16年には松山英樹とのプレーオフで破れて、ホールアウト後の記者会見で思わず悔し涙を流したという因縁の試合だが、自身11回目の挑戦で、ようやく初優勝を遂げたのだった。

「この勝利は、他のどの試合のものよりもちょっと特別だ。ここの雰囲気やギャラリーたちのことが大好きだし、いろんな理由でこの試合にどうしても勝ちたいと思うぶん、余計にプレッシャーがかかるからね。父や祖父母、アリソン(フィアンセ)の両親が見にきてくれている時に、初めてこうして優勝できて本当に嬉しい」

画像: ファウラーの左腕には「田中豊」と祖父の名前のタトゥーが入っている(写真は2019年のファーマーズインシュランスオープン 撮影/ 有原裕晶)

ファウラーの左腕には「田中豊」と祖父の名前のタトゥーが入っている(写真は2019年のファーマーズインシュランスオープン 撮影/ 有原裕晶)

最終日を迎えて4打差をつけて首位に立っていたファウラーは、5番でダブルボギー、11番でトリプルボギー、12番でボギーを叩き、一時はブランデン・グレースにも首位を明け渡し、自滅ムードが漂った。万事休すかに思われたが、そこから気持ちを切り替えて上がり4ホールで2バーディを奪取。

ファウラーが以前、松山英樹との優勝争いで池に入れた17番で1オンを成功させ、イーグル逃しのバーディを奪ったのに対し、1組前のグレースは17番で池ポチャして2位に後退。2打差をつけてファウラーが再び首位に立ち、そのまま逃げ切りで優勝を果たした。

彼の左腕に入れられたタトゥー「田中豊」とは敬愛する祖父の名前だが、その田中さんがファウラー同様、P(プーマ)の帽子をかぶって冷たい雨の中応援している姿がテレビに映し出された。おじいちゃんが大好きなファウラーにとって、田中豊さんの目の前で優勝できたことは相当嬉しかったはずだ。彼は最終日のプレーぶりをこう振り返る。

画像: フェニックスオープンではストローク・ゲインド・パッティング(パットのスコアに対する貢献度を表す指標)が3.319と、平均を約1上回るパットの冴えを見せた(写真は2019年のファーマーズインシュランスオープン 撮影/ 有原裕晶)

フェニックスオープンではストローク・ゲインド・パッティング(パットのスコアに対する貢献度を表す指標)が3.319と、平均を約1上回るパットの冴えを見せた(写真は2019年のファーマーズインシュランスオープン 撮影/ 有原裕晶)

「この2ホール(5番、11番)を除いては今週は本当にいいプレーができていた。ショットもよかったし、パットもよかったんだ。ただ、もうこんな勝ち方はゴメンだね。全然楽しくなかったよ。最初の3日間のプレーがよかったから貯金ができて、今日は多少ミスしても大丈夫だった。そのおかげで今日は完璧なゴルフをやる必要はなかったんだよ」

実は、最終日にダブルボギー、トリプルボギーを叩いて優勝したのは1983年以来ファウラーが初めてなのだという。そして彼が3日目までリードしていた試合で、アンダーパーを記録したことがないのだそうだ。

最終日のメンタルの持ち方、プレーぶりにまだまだ課題がありそうだが、最終日のドタバタの中でも最後の6ホールはボギーフリーのプレーができたことは自信になったようである。ラウンド中は“ただひたすら前を向いて進み、小さな目標を見つけてそれに対していいスウィングで打っていく”ということを実践しながら、プレーしていたのだそうだ。

「タイガーが昨晩、メッセージを送ってくれたんだ。“いいゴルフをして、自分の仕事をまっとうしろ”って。もう少しいい形でこれが実現できればよかったけどね。でも今日の自分の戦いぶりは自分でも誇りに思っている。タイガーの周りにいて、一緒にプレーしたり、マッチプレーをしたりしていると楽しいし、彼が何を考えているのかとか何をしているのかなどを聞かなくても勉強になるよ」

タイガー・ウッズとは、フロリダの自宅付近で時々一緒に練習をしたり、マッチプレーをする仲。いちいち何かを聞かなくても、世界王者の所作から日々学んでいる。だが、タイガーはかわいい弟分が最終日に弱いことを知っていて、「自分の仕事をしろ」とハッパをかけてやったのだろう。

ファン、家族、仲間を愛する熱い男

ファウラーはジャスティン・トーマスやローリー・マキロイなど同年代の若手選手仲間たちからも慕われているが、ファン、とくに子供たちからも大人気だ。

フィル・ミケルソンがファンへのサインを40〜50分かけてやることも有名だが、ファウラーもまたファンを大事にし、ミケルソンに負けていない。どんなに大叩きしようが、予選落ちしようが、スコアを提出するとサインをねだるファンたちの元へ直行。しっかりファンサービスに取り組んでいる。

彼はファンや友達を大事にする心優しい熱い男だ。彼の帽子には黄色いアヒルのピンバッジがつけられているが、これは昨年、全米プロ開催中に白血病で亡くなったオーストラリア人選手、ジャロッド・ライルを偲び、彼の家族と白血病患者をサポートする基金のマスコットキャラクター。

11年のフェニックスオープンで、ライルは16番ホールでホールインワンを達成したがそんなこともあり16番ホールのティグランドにはライルの愛用したバッグとクラブ、ハットが飾られていた。ファウラーは3日目、ライルの黄色いハットに手をやり、何か彼に祈りながらティショットに向かったが、きっと彼の冥福と、残された家族に対するバックアップなどを約束したのだろうと思う(まさか、優勝させてくれ! という神頼みではないだろう)。

画像: 昨年の全米プロ初日、亡くなったジャロット・ライルを偲び、黄色いウェアでプレーした(写真は2018年の全米プロゴルフ選手権 撮影/姉崎正)

昨年の全米プロ初日、亡くなったジャロット・ライルを偲び、黄色いウェアでプレーした(写真は2018年の全米プロゴルフ選手権 撮影/姉崎正)

昨年の全米プロの初日に、もともとブルーのウエアを着る予定だった彼が、ライルの死去を知ってライルのテーマカラーの黄色いウエアに着替えたこともあったが、ファウラーの友達を想う気持ちはあまりにもストレートで、熱く、男らしさを感じる。

決して超フレンドリーで気安い雰囲気ではないのだが、自分が大事にしている人や物に対する情熱は、はたから見ても熱い! そんな男気あるリッキーに、周囲から「過大評価されている」などと言われることのないよう、早くメジャー獲りをさせてあげたいと心から願う。

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