日本では高校卒業後、すぐにプロゴルファーを目指すという有力ジュニアゴルファーが少なくないが、アメリカではそのような例はむしろ少なく、カレッジゴルフでの活躍を目指すのが一般的。日米の事情の違いを、高校3年間を米国の高校で過ごし、現在はエースゴルフクラブでインストラクターを務めるアッキー永井が解説。

日本は高卒即プロ。アメリカは高校→大学→プロ

アメリカと言えばゴルフ大国。先日行われたPGAツアー「ウェイスト・マネジメント・フェニックス・オープン」は世界トッププロたちのプレーとともに、会場の盛り上がりも名物となっていますが、今年は現役大学生(オクラホマ州立大)のマシュー・ウルフ選手が出場し、その独特なスイングで存在感を示していました。

ウルフのように魅力あふれる選手がどんどん出てくるPGAツアーですが、世界一のプレーヤーたちもかつてはジュニア時代を過ごしてきています。彼らは一体どんな道を歩んできたのか、日米ジュニアゴルフの特徴的な違いについてご紹介します。

日米ジュニアゴルフの違いを語る上で避けて通れない話があります。

画像: 「ウエストマネジメント フェニックス オープン」では同じ大学の先輩のリッキー・ファウラーと練習ラウンドを共にしたマシュー・ウルフ

「ウエストマネジメント フェニックス オープン」では同じ大学の先輩のリッキー・ファウラーと練習ラウンドを共にしたマシュー・ウルフ

それはゴルファーの「キャリア」です。アメリカではジュニアゴルフ期とプロゴルフ期の間に「カレッジゴルフ期」が確立されているため、まずはカレッジ(大学)ゴルフを目指すのが最優先されます。実際にPGAツアー公式サイトから選手の経歴を見るとアメリカ人選手のほとんどが大学出身者であることがわかります。

日本でも最近は大学進学後にプロゴルファーへ転向するケースが少なくありませんが、多くのジュニアが高校卒業後のプロデビューを見据えています。

たとえば高校野球、夏の甲子園が終わるとどの選手がどこの球団にドラフト会議で指名されるかが気になるように、ゴルフでも高校卒業後即プロを目指すという流れにあまり違和感がない方が多いのではないでしょうか。

こうした流れの背景には家庭の事情やゴルフ環境の問題などもあると思いますが、仮に高校卒業後スムーズにプロになれなかった場合にはジュニアゴルフ期とプロゴルフ期の間がポッカリ空いてしまうという問題が生じます。

学業の成績が良くなければゴルフ部に入れない!?

それに対して、アメリカの場合は高校卒業後はカレッジゴルフに進むのが一般的です。アメリカでも日本同様ゴルフはそれなりの経済力がないと続けられないという認識があり、そうでなくともアメリカの大学でスポーツ部に入ること自体かなり敷居は高いのですが、その分サポートは手厚く、ゴルフ環境は大学側が用意してくれます。大きな大学にもなると大学所有のコースがあることもあります。

このような仕組みがあるため、高卒でプロ活動をするよりもゴルフの腕を磨けるうえに、好きな学問の勉強も続けることができる良い環境が整っているのです。

画像: もちろん日本のジュニアがみんな即プロを目指すわけではない。松山英樹は東北福祉大の卒業生。在学中の2011年にマスターズに初出場し、ローアマを獲得したのは大きなニュースとなった(写真は2011年のマスターズ 撮影/姉崎正)

もちろん日本のジュニアがみんな即プロを目指すわけではない。松山英樹は東北福祉大の卒業生。在学中の2011年にマスターズに初出場し、ローアマを獲得したのは大きなニュースとなった(写真は2011年のマスターズ 撮影/姉崎正)

これだけのメリットがあれば入学競争が激しくなるのは簡単に想像できると思います。アメリカではジュニアゴルファーの試合結果には選手の高校卒業年度が表示されるのが一般的で、これを見て大学側が良い選手を見つけてアプローチします。アプローチの仕方についてはNCAA(全米大学スポーツ協会)から大学に対してルールが設けられていますが、今回は割愛させていただきます。

面白いのはここからで、選手の選考にあたって重要視されるのがゴルフスキルだけではないということです。統一試験(SAT※)の成績、学校での成績、態度、地元コミュニティへの貢献、他のスポーツ経験の有無などすべてが総合的に評価されます。中でも特に統一試験(SAT)の成績と学校の成績は最重要項目で、大学でスポーツ部に入りたい学生は成績をできるだけ高く保つことを意識しています。

※SAT(大学進学適正試験)=英語・数学の試験。日本のセンター試験のような位置づけ

学力面でライバルと差別化が出来ない場合には、ボランティア活動の有無等がアピールポイントになってくるわけです。また、ゴルフは個人競技という特性上、協調性を欠く選手が少なくなく、大学のコーチはそれをとても嫌います。

カレッジゴルフは団体競技であることに加え、それまでに比べてさらに国際的な人員構成となるためチームで相乗効果を生み出せるようなプレーヤーを求める傾向があります。たとえば中学時代にサッカーチームでキャプテンを経験していたりすると高く評価されます。

結局なにが違うの?

要するにアメリカのジュニア達はゴルフ、勉強、人間性のすべてをバランスよく横へ広く伸ばすことを重視しているということです。もちろんゴルフが軽い気持ちで始められるという文化が後押ししていることでしょう。逆に日本は、縦に鋭く伸ばしていく傾向があります。良くも悪くも中途半端はよろしくないという価値観があり、「どうせやるなら本気でやろう」という考え方が大半ではないでしょうか。

明日から日本の価値観が180度変わるなんてことはありませんから、まずは親や、周囲の大人たちが海外のジュニアゴルファー事情にアンテナを張ることが大切かもしれませんね。

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