「最年少プロ転向」「最年少優勝」といったような言葉を聞くと、期待の選手が登場したか!? と色めき立つが、アメリカの場合はゴルファーを育てる上で「早く育てる」ことよりも、「大器晩成」を重視するという。アメリカでティーチング資格を取得し、ジュニア育成の現場にも身を置いたアッキー永井がレポート。

日本では10代半ばでプロ転向する選手も珍しくなくなってきた

2018年に竹内優騎くんが16歳2カ月の最年少でPGAトーナメントプロになった(ちなみに石川遼のJGTOツアープロ転向は16歳3カ月)。2016年には畑岡奈紗選手がアマチュアとして最年少(当時17歳)でツアー優勝を果たし、あの宮里藍選手の記録を塗り替えたのが記憶に新しい。 

画像: 最年少でツアー優勝を果たし、そのまま世界のトップ選手へと成長。大活躍を続けている畑岡奈紗(写真は2018年のTOTOジャパンクラシック 撮影/岡沢裕行)

最年少でツアー優勝を果たし、そのまま世界のトップ選手へと成長。大活躍を続けている畑岡奈紗(写真は2018年のTOTOジャパンクラシック 撮影/岡沢裕行)

これらの事実は現在のジュニアゴルフ界における競技レベルが相当高くなっていることを意味している。たとえば近頃は小学6年生でもドライバーが240ヤード飛ぶ子もいるようだ。もちろんこれは「上手い」というよりも、大人のクラブを使える体格の子たちが現れ始めたということだ。プロツアーで求められる飛距離は年々上がっていき、プレースタイルもまたダイナミックさを増しているという背景も影響していることだろう。

さて、ここまで見ると日本のジュニア育成が功を奏しているようにも感じるが果たしてどうなのだろうか。今回はTPI(タイトリストパフォーマンス研究所)で採用されている長期的なジュニア育成方法を紹介したいと思う。

これだけは外せない!「長期的アスリート育成(LTAD)論」

まず紹介したいのが「LTAD」という言葉だ。LTADとはLong Term Athlete Developmentの略で、読んでその名の通り幼少期から大人になるまでの長期にわたる育成方法のことである。

アスリートの育成が長期的なものとなるのには理由がある。人は幼少期から思春期、そして成人へと成長するなかで発達する機能が異なり、最適なタイミングで最適な能力を磨くことによって、結果的に効率の良い育成がなされるからだ。

LTADを遂行するにあたって、知っておかなくてはならない事実がいくつかあるのでご紹介しよう。

1:「1万時間の法則」

ある1つのことについてエキスパートになるためには1万時間を要するという説である。 2006年にマルコム・グラッヂウェル氏によって執筆された「天才!成功する人々の法則」の中で提唱された法則で、この説については過去に「みんなのゴルフダイジェストにも掲載されている(『プロになるには1日3時間練習を10年続ける必要あり!? プロゴルファーに「1万時間の法則」は当てはまるか 』)。

ツアープロコーチであり、ジュニア育成にも注力する井上透氏のレポートを見ればこの法則に一定の信憑性があることはお分かりいただけるはずなので、興味のある方はこの記事の末尾の関連記事のリンク先を見てもらいたい。

時折、アジア人初のメジャー王者(全米プロ)で昨年日本ツアーでも勝利を挙げたY・E・ヤン選手のように、19歳でゴルフを­始め、その5年後にはプロデビューを果たしているといった例もあるが、そういった場合はそれ以前に他のスポーツをやっていて、スキルの移行がなされたためと考えられる。

画像: Y・E・ヤンは19歳でゴルフを始めている(写真は2018年日本シリーズJTカップ 撮影/姉崎正)

Y・E・ヤンは19歳でゴルフを始めている(写真は2018年日本シリーズJTカップ 撮影/姉崎正)

2:「アスリートファースト」

ゴルファーとして特化する以前に運動能力を高め、アスリートとしての基礎をしっかり育てること。ボールが投げられない、高くジャンプできない、バランスが取れない、速く走れない、どれか1つ出来ないだけでもゴルファーとして腕を磨く上で障害となってしまう。TPIでは5、6歳から15歳までの間にこうしたアスリートの基礎を「運動能力」と「スポーツ能力」の2つに分けて育成していくプログラムが採用されている。

画像: ジョーダン・スピースは13歳まで野球に注力していたという(写真は2019年のファーマーズインシュランスオープン 撮影/姉崎正)

ジョーダン・スピースは13歳まで野球に注力していたという(写真は2019年のファーマーズインシュランスオープン 撮影/姉崎正)

たとえば最初は無目的に走ったり、モノを投げたりさせるのが運動能力で、一定のルールや目的をもって行うことによって子ども達に高度な意思決定が求められるのがスポーツ能力と言える。こうした能力は打ちっ放しで延々とボールを打っていても身につけることはできない。色々な遊びや、他のスポーツを通して学べるものだ。ちなみにジョーダン・スピースは13歳まではゴルフよりも野球に注力していたそうだ。

3:「成長の窓」

最近は激しいウェイトトレーニングをするプロゴルファーの写真を見ることが多くなった。雑誌やインスタグラムなどを通してブルックス・ケプカやダスティン・ジョンソンらがどれほどのトレーニングを積んでいるか目にしたことがあるのではないだろうか。

画像: ダスティン・ジョンソンなどハードなトレーニングを積む選手が増えているが、だからといって子どもに同じトレーニングをさせるのが正解とは限らない(写真は2018年の全米プロゴルフ選手権 撮影/姉崎正)

ダスティン・ジョンソンなどハードなトレーニングを積む選手が増えているが、だからといって子どもに同じトレーニングをさせるのが正解とは限らない(写真は2018年の全米プロゴルフ選手権 撮影/姉崎正)

とはいえ、10歳児にベンチプレスやデッドリフトをさせるのは何が何でも早すぎるのは想像に容易いだろう。では一体何歳の頃に何をさせるべきなのか? 研究では子どもは成長過程によって最も伸ばしやすい能力が時期によって異なることが判明している。このことを“トレーナビリティ”と呼んでいる。日本語でわかりやすく表すならば「成長の窓」といったところだろう。

たとえば、高校生以前の年齢ではまだ心肺機能が未熟なためスタミナ強化は非効率である。反対に、身長は大きく伸びるため全身の筋肉に張りが出る。筋肉が順応するよりも速く骨が伸びるためだ。したがって小学生高学年から中学生の身長が大きく伸びる期間においては柔軟性を保つための取り組みが欠かせないといったようなことだ。

ジュニア育成現場に見る課題

今回はLTADを遂行する上で、とくに重要な3つの要素だけを紹介させていただいた。とかく日本のスポーツ界では「最年少」が取り沙汰されやすいためか、現場で見て見ぬ振りにされている部分もあるのではないだろうか。

プロデビューを急ぐあまり、ツアーで長く活躍することよりも「プロになる!」こと自体が目的になってしまうことも子供たちとってはありがちだ。また、周囲の人間も期待を押し付けがちになってしまわぬよう長い目で見守ることが大切だろう。

なにか1つのことを極めることに美徳を感じる我々にとって色々なスポーツに手を出すのは浮気っぽく見えるかもしれないが、しっかりと基礎を作るためには欠かせないことなのだ。まだまだ日本のジュニア育成の考え方や、環境に課題は多いが今すぐできることは、まず外で体を使って遊ばせ、子どもたちが体を使うことを好きになること、そして学校の体育の授業で思い切り楽しむことだろう。

HONMA

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