「WOSS(ウォズ)」というパターをご存知だろうか。
96年シーズン、“ジャンボ”こと尾崎将司のエースパターとして突如登場し、異例のプロ使用率を誇ったクラブだ。その年、尾崎将司は年間8勝。ジャンボ軍団をはじめとする使用プロが、年間20勝以上という空前の成績をあげた。あとにも先にもこれだけ鮮烈な実績を残したパターはない。
尾崎の愛用したパターといえば、クラシックなL字型である「Tommy Armour IMG5」が有名。バブル期には、ジャンボ人気もあってか数十万の値がついたというヴィンテージパターだ。シャープでブレード部分が細く、やや強めのグースネックになっている。
88年の日本オープン、尾崎が最終ホールで短いウィニングパットを二度仕切り直したエピソードは有名だ。それ以降、思うようにいかないパッティングに苦しむことになるが、「WOSS」を愛用する頃の尾崎は、イップスとも言われたパッティングの不調を完全に克服していた。
今でこそ、「2ボール」や「スパイダー」などの大型パターが群雄割拠しているが、「WOSS」は当時としては大ぶりのマレット型パターだった。ヒール部分にシャフトを挿入する出っ張り部分があり、ふところ感と操作性を生み出している。
当時、尾崎は「WOSS」パターについて、「88年のジャパンオープンから引き継いだことの答え」であり、単に気分転換でパターを変えたというようなものではないとコメントしている。尾崎のプロ生活、そしてイップスへの取り組みの帰結として生まれたのが「WOSS」だったのだ。
「WOSS」はその後、ブランドの名前だけが幾度か他社に引き継がれ、かつてツアーを席巻した本格派の趣きはどこにもなくなってしまった。そして、初代の「WOSS」を開発し、強いジャンボを支えたクラブデザイナー、増田雄二氏は現在、自身のブランド「マスダゴルフ」を主宰している。
すでに20年以上が経過し、ゴルファーの記憶からも薄れつつある今日、当時の「WOSS」の面影を残すパターを増田氏が新たに制作したという。東京の三越伊勢丹でのキャンペーン限定アイテムとして販売するそのパターについて、増田氏に話を聞いた。
——新作のパターは、当時の「WOSS」を彷彿します。
増田:三越伊勢丹さんから、イベントのために特別なクラブを作って欲しいという依頼がありました。テーマが<アーカイブ 古き良き物>ということだったので、「WOSS」を思わせるようなモデルを作ると面白いんじゃないかと
—出来栄えは納得のいくものになりましたか?
増田:「WOSS」の良さをベースにさらにアレンジを加えています。L字型のような操作性を持ちながら、難しさを微塵も感じさせない仕上がりになりました。
—この形状で一般販売はされるのでしょうか
「今回はあくまでも三越伊勢丹さんのイベントのためのモデルで、一般販売は今のところは考えていません。ぜひイベントに来て見ていただきたいですね」
このモデルは、「スタジオコレクション MO-1」という名称。96年当時、尾崎将司のエースパターだった「WOSS MO-01」がアルミ製ヘッドだったのに対して、軟鉄削り出しで作られている。形状はカマボコ型の「WOSS MO-01」よりも、トゥヒールバランスを採用した「WOSS MO-03」に近い。
価格は10万円(税別)。オーダーメイドで納期は60日程度かかるという。期間中は、日本橋三越のマスダゴルフファクトリーで現物を見ることが可能だ。当時のことを知っているファンも知らないゴルファーも、往年の名器を思わせるこの限定モデルを一度見に行ってはいかがだろうか。