明るいうちに上がるな
冬至を過ぎたばかりのある朝、我孫子GC一番ティ付近は、二人の常連メンバーの話題でもちきりでした。「あの二人きのう二・五回ったとさ」「上がったとき、それでもまだ明るかったって」
蛇足ながら、二・五とはツー・ラウンド・ハーフのことです。もちろんトップスタートですが、そういう元気者のこと、多分フライング気味に出たのでは。我孫子GCのメンバーにはそういう自由裁量があります。
最初のハーフは前がいませんからいいとしても、その後は順々に挨拶を交わしながらのパス、パス、パスの連続だったわけでしょう。私には、昔からのここの美風が生きている羨ましい光景が目に見えるようです。
ちょっと計算してみました。
冬至近くです。日の出は七時頃ですが、キャディさんの用意ができるのは早くて七時四十五分頃でしょう。日の入りは十六時半。七時四十五分から、「上がったとき、まだ明るかった」という証言がありますから、十六時十五分までとして八時間半です。
赤星六郎さん設計による、男の技量と度量を試されるコースレート七十二・三(編注:刊行当時)。そうとうお上手な方であることは間違いありません。
ティショットは十秒以内。歩行が速く、次打のクラブをキャディに運ばせるなどということはなく、相棒のショットと自分のショットの間に時間を置かない。それでも二人は並んで歩きながら気の置けないお喋りも十分に楽しんだことでしょう。
二・五ラウンドで八時間半。昼の休憩半時間として計算上は八時間。ラウンド二時間四十分の計算です。いくらパスを重ねたとしても、パスさせてもらうタイミングまでに待ち時間がなくはないはずです。ラウンド巧者の二人とはいえ真冬に二・五できたということは、我孫子のコース全体の流れがスムースであることにほかなりません。
その話題を楽しんでいるメンバーたちを拝見していると、皆さんの顔にいろいろ書いてありました。二人の元気に快哉、拍手、羨望。こういうことができるうちのコースヘの大いなる満足感。
私がご一緒させてもらった方が「以前の我孫子では一・五が当たり前でした。二ラウンドも普通でした。明るいうちに上がるなって言われましたからね。みんなせっせと回りましたよ」と話してくれました。「いまはラウンド後もうハーフを誘うと、まだ回るのって驚かれたり、嫌がられたり。思うに、みんな 一ラウンドになれてしまってプレーが遅くなりました」
おっしゃる通り。パー5のセカンドショットで、打たずにグリーンの空くのを待っている。ティに後続の組が待っているのに、番手を下げて打って進む頭がないのです。亀谷さんは「時間をみんなで共有している意識がないんですね」と嘆きます。
ところで、私たちの組のキャディが笑って言いました、「きのうの二人についたキャデイ、きょうはお休みしてます」
「脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より ※一部改変