プレッシャーがかかっても曲がらない
イタリアを代表する選手、フランチェスコ・モリナリが、アーノルドパーマー招待で今季初優勝を挙げました。モリナリは今年、まだ3試合の出場にとどまっていますが、出場している試合では着実に順位を上げてきています。
今後続くビッグトーナメントのプレーヤーズ選手権、WGC、そしてマスターズへの調整は順調と見ていいでしょう。昨年の全英オープンでの優勝経験もあり、メジャーの優勝候補として活躍が期待できます。
モリナリの強さは安定したショット、とくに大舞台やプレッシャーのかかる場面でも再現性の高いスウィングができるという点にあると思います。注目すべきはスウィング中の腕と体の同調性です。
モリナリのドライバーショットは、アイアンのように体と腕の一体感を保ったシンプルなスウィングが特徴です。体重移動や下半身の踏み込みといった力強さやダイナミックさには欠けますが、下半身から腕までの動きを連動させ、生み出したエネルギーを余すところなくクラブに伝えています。
そして腕と体を同調させることで、切り返しやインパクトにおいて手先でクラブを操作する動きを排除し、常に同じ動作とタイミングでボールにコンタクトすることができています。メジャーの大舞台や最終日の猛チャージではアドレナリンが出てスウィングに微妙な変化をもたらしますが、この同調性がキープされているおかげで、そういった場面でも再現性の高いスウィングができているのです。
同調性に注目した黎明期の名コーチ
モリナリのようにスウィングの再現性を高めるため、体と腕の同調性をキープすることもはや定説となっています。これはPGAツアーにコーチングを広めたデビッド・レッドベターをはじめとしたコーチの影響が大きいのではないでしょうか。90年代に活躍し始めたレッドベターですが、実はそれ以前にこの同調性をスウィングの核として重視していた人物がいます。
左腕と体の関係性を変えずに振る「コネクションスウィング」を提唱したジミー・バラッドというコーチです。バラッドはメジャー5勝を挙げたセベ・バレステロスやPGAツアーで活躍したロッコ・メディエイトらのコーチを務めていました。
当時はフェースの反発係数が低くシャフトの性能も低かったため、腕を振ってヘッドを返して飛ばすスウィングが主流でした。しかしこれには腕を回すタイミング次第でフェース面の角度が大きく変わり、再現性が低くなるという問題点ありました。
そこでバラッドは左腕と体を同調させて振ることで、クラブを安定的にコントロールするように教えたのです。また腕を振るかわりに右サイドを積極的に使い、体の回転を速くしてヘッドスピードを上げるようにしました。
この動きは現在のモリナリにも通じるものです。30年以上前の理論が一線級の選手によって証明されているのは、コーチとして感慨深いものを感じます。セベの時代から脈々と続く動きを武器に、モリナリが初めてグリーンジャケットに袖を通すことができるのか注目したいと思います。