全英オープンの開催コースとしても歴史のあるプレストウィックGC。その地に訪れたマナー研究家・鈴木康之がキャディマスターの“大男”に本場でのゴルフ・エチケットを教わったという。自身の著書「脱俗のゴルフ」からエピソードを紹介。

プレーはファストに、ビアはゆっくり。

プレストウィックGCのキャディマスターはリンクスランドの名物男の一人と言っていいでしょう。行ったことのある人に話をすると、たいていすぐ思い出して「ああ、あの大男ね」と言います。

彼と並んで撮った写真を見ても、とくだん偉丈夫ではないのですが、顔立ちが大柄で、精いっぱい愛想がよく、同倶楽部の信条「リラックス&フレンドリー」そのままのホスピタリティがかなり強烈なために大男のイメージで記憶が残るのでしょう。

初めて会ったとき、訛りが強くて彼の名前がよく聞き取れませんでしたので、私のメモ帳に書いてもらったところ、Roger Alexander。ロジャー・アレグザンダーと濁って発音します。「代表的なスコットランド・ネームなんだ」と胸を張りました。

アレグザンダーには本場でのゴルフ・エチケットをいろいろ教わりました。

私とワイフの組を「もっとも好ましいパーティ」と言いますから、誉められたのかと思ったらそうではなく、旅行者なら二人で、しかも何回目かまではキャディをつけるのが、コースの流れを乱さないいい形だという意味でした。二人なら追いついた三人組や四人組をパスできます。

好ましくないのは旅行者だけの四人組だそうです。ここは、コースの難度が、スコットランドで最難級です。全英オープン初期十年間の会場だったクラシック・リンクスをキャディつけずに一見の客四人で歩くのは、闇夜に提灯なし。

二百ヤードのパー3「ヒマラヤ」も、パー4「アルプス」のセカンドショットも、グリーンは旗の先すら見えない丘越えになります。キャディの案内なしには方向も番手もわかりません。

密生するブッシュとうねるラフ。私たちよそ者の目では球が消えた地点を見誤り、ボール探しで後の組を待たせます。その点キャディはすぐに見つけ出します。また、キャディは互いに目で交信しますから、パスを促したり譲ったりして、流れに淀みをつくりません。

画像: プレーは速いほど、ゆっくり19番ホールが楽しめる

プレーは速いほど、ゆっくり19番ホールが楽しめる

前日に訪ねたノースベリックGCのスタートハウスには、「ラウンド三時間以上をかけてはいけない」のボードがありました。ここには見当たらないので、「ここでは」とアレグザンダーに尋ねると、答えは明快でした、「速いほどベターだよ」。

私とワイフの組は、先行の四人組を一回パス。上がってみると、三時間と約十五分でした。マスター室の前でアレグザンダーが「エンジョイしたか」とあちらお決まりの言葉。「充分に。しかし楽しんだぶん十五分遅れた」と言うと、「ノープロブレム」と笑って首を振りました。

結構足にくるアップダウンもある十八ホールをせっせと一気に歩いた後は、快い疲労感と達成感に浸りながらの十九番です。アレグザンダーの「速いほどベター」には続きがありまして、「プレーイング・ゴルフが速いほど、ドリンキング・ビアの時間が、ゆっくりできるのさ」。

それにしても、日本では「ハーフ二時間十五分以内で」と書いてあります。「ラウンド三時間以内で」との大きな違いの原因はなんでしょうか。

「脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より

撮影/小林司

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