ツアー選手がアイアンのPWではなく、ウェッジの48°を入れるのはなぜ?
賢いウェッジ選びについて聞くと、ボブ・ボーケイ氏は「スコアメークのことを第一に考えるならば、まずウェッジを決めて欲しい。それを中心にクラブセットを決めていくべきです」と切り出した。
なぜなら、必ずしもパーオンをすることができないゴルフの場合、グリーンを外した後のアプローチでいかにカップに近づけることができるか。それが1パット、つまりパーで切り抜けられるかどうかの生命線になるからである。そのことは現在の米男子ツアーのウェッジ選択のトレンドをみればよくわかるという。
「現在多くのトッププレーヤーがアイアンのPWではなく、ウェッジシリーズの46〜50度のロフトをバッグに入れています。その数は年々増え続けており、ボーケイウェッジを使うプレーヤーの67%が、すでにアイアンのPWではなく、ウェッジのPW相当のロフトをチョイスしています」(ボーケイ氏)
その理由はもちろん、PWは飛ばしてナンボのクラブではなく、ピンポイントを狙うクラブであるからだという。
「何をもってピッチング“ウェッジ”というかになりますが、個人的には単にロフトが48度前後になっていればいい、ということではないと思っています。意図してスピンコントロールすることができ、狙った方向、距離に安定して止めることができる。それができて初めてPWだといえるからです。
現在、アイアンは総じてロフトが立ってきていますし、その結果、セットのPWは10番アイアンともいうべきものになっている気がします。見てわかるようにそれらの多くはウェッジのプロファイル(形状)とは違う、アイアンの流れに沿ったものです。
しかし、同じロフトであってもウェッジシリーズのクラブは、グルーブ(溝)も安定してスピンコントロールするために考え抜かれた専用のものになっています。プロファイルもリーディングエッジの丸みも、コントロールショットしやすい特別な設計になっているのです。狙う、という役割を考えれば、どちらが適しているのか、自ずと答えは決まってくると思います」(ボーケイ氏)
ウェッジは上がるが飛ばない!?それはもう過去のイメージである
ゴルファーの中には“ウェッジシリーズは狙いやすいかもしれないが、距離が出にくい”、そんなイメージを持つ人も多いのではないだろうか? その点についても単刀直入に聞いてみた。
「たしかにかつてはツアープレーヤーの間でもアイアンのPWに比べ、同ロフトのウェッジは3〜4ヤード飛ばないという意見がありました。それもあって『SM4』の頃は、PWを抜いてウェッジを入れるプレーヤーは40%ほどしかいなかったと思います。でも、『SM6』で“プログレッシブCG”というロフト別重心設計を取り入れたところ、飛ばないという声はほとんどなくなりました。これはとても大きなウェッジの進化だったのです」(ボーケイ氏)
タイトリストが現在の最新ウェッジラインナップである「SM7」、日本モデルの「ボーケイフォージド」共通で採用しているのが“プログレッシブCG”だ。これは従来、フェースセンター付近に重心を配置することが難しかったウェッジの宿命を打破するために考えられた、ボーケイウェッジ独自の設計思想である。
「構えやすさ、安心感といったことを考えるとウェッジのプロファイルを大きく変えることはできない。ボーケイ200シリーズがどうしてもベースになるのです。しかし、その形状でヘッドを作ると46〜52度のロフトが小さいモデルは高重心になりすぎ、58度以上の大ロフトモデルでは重心が低くなりすぎてしまうのです。どのロフトでもフェースのセンター付近に重心があれば、たとえミスヒットしても、意図的に軌道を変えてボールを打っても、打点とヘッド重心が離れすぎることがない。つまり、あらゆる打点でヘッドのブレを抑え、安定した弾道を得ることができる。だからなんとかロフトによる重心の偏りをなくしたいとずっと考えていたのです」(ボーケイ氏)
“どうやったらそんな理想を実現できるのか。それはタイトリストの若いエンジニアたちの仕事さ。彼らは頭脳明晰。とにかくスマートだからね”とボーケイ氏はウインクした。
ボーケイデザインSM7ではロフトごとにバックフェースの肉厚やソール構造を変えることで重心を調整。先日発売されたボーケイフォージドは、バックフェースは全ロフトでフラットだが、ブレード内部に軽いチタンや重たいタングステンを部分配置し、ヘッド一体で鍛造することで重心を精密にコントロールしている。
「打点と重心が近づいたことで、構えやすい伝統的なウェッジのカタチでありながら飛距離のロスがなくなったのです。そしてもうひとつ、打点と重心が近づいたことでフィール(打感)がさらによくなった。それが今や67%のボーケイウェッジプレーヤーがPW相当ロフトを入れている大きな理由なのです」(ボーケイ氏)
ボーケイ氏はどんなウェッジの話をする時も、最後に“基本的にはパーソナルなものだが”と付け加える。ウェッジゲームのスタイルは多種多様で、それぞれに好みもある。だから、正解はひとつではない。いま話したこともひとつの考え方に過ぎないのだと。
ボーケイ氏は世界中のプロツアーに出向き、ボーケイウェッジを使用する選手たちに“問題はない?”と声をかけて回っている。直接話すことで個々のニーズをつかみ、さらに最適なウェッジを使ってもらうのが目的だ。今回視察した日本の女子ツアーでは、ほとんどの選手から「問題ない」「完璧」という回答を受けたそうだが、ホッとした反面、フィードバッグが少なく寂しさも感じた様子だ。
重ねて書くが、インタビュー中、何度も“基本的にはそれもパーソナルなものだ”とボーケイ氏は付け加えた。「どうすれば?」の前には、必ず「どうしたい」がなければならない。我々アマチュアもまず、自分自身にどういうアプローチ(寄せ)をしたいのかと問いかける必要があるな、と感じた。
※一部訂正致しました(2019.03.25 11:19)